最新記事

チョルノービル

ロシア軍、チョルノービル原発周囲を地雷で包囲か 「サプライズがあると思え」

2022年4月15日(金)17時45分
青葉やまと

1986年に国際原子力事象評価尺度で最大となるレベル7の事故を起こしたチョルノービル原子力発電所は、現在も使用済み核燃料の冷却や周囲のモニタリングなどを継続しており、安全維持に電力は必須だ。

現地にはディーゼル発電機と備蓄燃料が備えられており、最大で48時間までならば電力を賄うことができるが、それ以上の保険はない。

ウクライナのドミトロ・クレバ外務大臣は停電当時、「チョルノービル原発は全電源を喪失した」とのツイートを通じ、切迫した事態を訴えた。「非常用のディーゼル発電機は、チョルノービル原発に48時間電力を供給する能力を有する。これを超えると、使用済み核燃料の貯蔵庫の冷却システムが停止し、放射能漏れが差し迫ることとなる。」

果たして停電は想定を超え、3日間に及んだ。このとき施設の保安に貢献したのが、現地に幽閉されていたエンジニアたちだった。

「死ぬことは恐れなかった」

使用済み燃料の冷却機能を維持するため、職員たちは奔走した。英BBCは、職員らが敷地内の至るところから燃料をかき集めたと報じている。確保できる燃料がなくなると、危険を承知でロシア軍から燃料を奪った。

施設にいたエンジニアのひとりであるヴァレリー・セモノフ氏はBBCに対し、当時の心境をこう振り返る。「ことの重大さは容易に想像がつきます。自分の命を落とすことは恐れていませんでした。もしも私がいなくなり、発電所を監視できなくなればどうなるかを恐れていたのです。人類にとっての悲劇を恐れていたのです。」

停電により放射性物質が飛散する事態となれば、危険は東欧から中央ヨーロッパにまで及んでいた可能性があった。

こうして危機を脱したものの、占拠後の混乱はいまだに尾を引く。ロシア軍は撤退時、制圧前から警備にあたっていたウクライナ国家警備隊169名を連れ去った。彼らの安否と所在はいまだ確認されていない。

地雷残置の危険性に消息不明の警備隊にと、ロシア軍撤退後も関係者に動揺が拡がっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減

ビジネス

米KKRの1─3月期、20%増益 手数料収入が堅調
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中