最新記事

原発

ロシア軍「原発攻撃」の衝撃 各国の建設計画に慎重論も

2022年3月8日(火)11時12分
ウクライナのザポリージャ原発

ロシアがウクライナにある欧州最大級のザポリージャ原発を砲撃・制圧したことで、各国の政策担当者や企業は、気候変動対策として原子炉を建設する計画に対してより慎重な態度になるはずだ――。写真はザポリージャ原発。2008年6月撮影(2022年 ロイター)

ロシアウクライナにある欧州最大級のザポリージャ原発を砲撃・制圧したことで、各国の政策担当者や企業は、気候変動対策として原子炉を建設する計画に対してより慎重な態度になるはずだ――。原子力の安全性に関する複数の専門家は4日、こうした見方を示した。

ロシア軍は4日にザポリージャ原発を手中に収めたが、それまでに激戦が展開され、原発の研修施設で大火災が発生。火災は消し止められ、原子炉は問題ないと職員が宣言したものの、原発は戦時の攻撃にもろく、深刻な放射能漏れが起きる危険性があると世界中に警鐘を鳴らす形になった。

米国の非営利団体、「憂慮すべき科学者同盟(UCS)」の原子力安全問題担当ディレクター、エドウィン・ライマン氏は「原発プラントにおいて、自然災害だけでなく人為的な災害からも守る措置を講じる必要性について、もっと深刻に受け止めなければならない」と訴えた。

グリーンフィールド米国連大使は4日の国連緊急特別総会で、ザポリージャ原発への攻撃を「信じられないほど向こう見ずで危険だ」と非難し、ウクライナだけでなくロシアや欧州全土の人々の安全を脅かしていると主張。在ウクライナ米大使館は、ロシアの原発攻撃を「戦争犯罪」と糾弾している。

別の非営利団体、核不拡散政策教育センター(NPEC)のヘンリー・ソコルスキー所長は、ザポリージャ原発攻撃は原子力産業全体に逆風となったと指摘。「ウクライナの原子炉は、直接打撃を受けなかった。(しかし)原子炉が軍事攻撃を受けた場合の脆弱(ぜいじゃく)性を各国が考慮に入れた場合、今後原子力発電そのものが、もっと大きな痛手を被るだろう」と述べた。

業界は強気

発電に伴う温室効果ガス排出量が実質的にゼロとなる原発は近年、温暖化に取り組む各国政府にとって推進の動きが加速している。世界原子力協会(WNA)によると、現在建設中の原子炉は58基、計画段階は325基に上る。計画の多くは東欧地域だ。

米政府は昨年11月、ニュースケール・パワーが同社製小型モジュール原子炉(SMR)のプラントを建設することでルーマニアと契約を交わしたと発表。この合意によって「SMR開発の世界的競争で米国の技術が先頭に立つ」ことになると付け加えた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日産が「エクステラ」復活と売れ筋2車種の強化検討、

ワールド

G7財務相、ロシアへの圧力強める姿勢を共有=加藤財

ビジネス

米ADP民間雇用、9月ー3.2万人で予想に反し減少

ビジネス

ステーブルコイン、決済手段となるには当局の監督必要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけではない...領空侵犯した意外な国とその目的は?
  • 3
    【クイズ】身長272cm...人類史上、最も身長の高かった男性は「どこの国」出身?
  • 4
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 5
    なぜ腕には脂肪がつきやすい? 専門家が教える、引…
  • 6
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 7
    通勤費が高すぎて...「棺桶のような場所」で寝泊まり…
  • 8
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 9
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 10
    10代女子を襲う「トンデモ性知識」の波...15歳を装っ…
  • 1
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市…
  • 9
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 10
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中