最新記事

ウクライナ危機

第2次大戦後の世界秩序が変わる時

PUTIN’S GAMBIT

2022年3月4日(金)16時15分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)

これらの危機はどれも悲惨だったが、特定の地域と時期に限定されていた。だが今回の危機は、はるかに広範に及ぶ恐れがある。

「武力で他国の領土を奪わないという第2次大戦後の不文律がゆがめられたことは過去にもある。だが今回は完全に破られたようだ」と、クリントン政権で国防次官補(国際安全保障担当)を務めたジョセフ・ナイは語る。

1930年代のヒトラーとプーチンのもう1つの類似点は、虚実の交ざった妄想を理由に行動を起こしていることだ。

ヒトラーは、ベルサイユ条約という「不平等条約」を覆して、ドイツ語圏を併合するとして、非武装地帯ラインラントへの進駐やオーストリア併合を正当化した。

プーチンも、ウクライナやジョージアなど旧ソ連圏諸国のロシア系住民の希望に応えるためだとか、NATOの東方(つまり旧ソ連圏)拡大が不当だとして、侵攻を正当化してきた。2月21日のテレビ演説では、「ウクライナは隣国であるだけでなく、われわれの歴史と文化と精神の不可分の一部だ」と強弁した。

サイバー攻撃能力の脅威

ロシア帝国の偉大さを取り戻すという、個人的な野望を実現する機が熟したという判断もあったようだ。

2014年にウクライナ領クリミア半島を併合し、さらに東部ドンバス地方の一部を実効支配下に置いて以来、ロシアは制裁を受けてきたが、これなら耐えられるとプーチンは判断したのだろう。

同時に、今やらなければ、ウクライナはNATO加盟を果たしてしまうという焦りも、プーチンにはあったようだ。そうなってからウクライナを攻撃すれば、NATOの基礎となる北大西洋条約第5条(集団的自衛権)に基づき、ロシアはNATOの反撃を受けることになる。

中国などと比べると、ロシアはさほど世界経済に深く組み込まれているわけではない(もちろんエネルギーは例外だが)。

故ジョン・マケイン米上院議員は生前、ロシアは「国家の仮面をかぶったガソリンスタンドだ」と揶揄したものだ。

世界経済から比較的孤立しているということは、「(欧米諸国には)ロシアに影響を与える手段があまりない」ことを意味すると、ジェームズ・スタインバーグ元米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は指摘する。

「みんな石油と天然ガスが必要だから、いずれ(ロシアの暴挙を)受け入れるようになるだろうとプーチンは計算しているのだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

リクルートHD、求人情報子会社2社の従業員1300

ワールド

トランプ氏の出生権主義見直し、地裁が再び差し止め 

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中