最新記事

ウクライナ情勢

ウクライナの部品がないとロケットも作れず 「宇宙大国ロシア」はプーチンの幻想

ロシアのプーチン大統領

2013年、ISSの宇宙飛行士との通話を行ったときのプーチン大統領 RIA Novosti - REUTERS

欧州のロケット打ち上げを次々に妨害

ウクライナ侵攻で経済制裁が強化される中、ロシアが宇宙での対抗姿勢を打ち出している。ロシアのロケットで打ち上げる予定だった欧州の衛星を事実上拒否したり、ロシアも含めて15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)での任務放棄やISS落下をほのめかしたり。着々と技術を蓄積する中国や、米スペースXなどの宇宙ベンチャーの躍進に、かつての宇宙先進国・ロシアは、焦りと怒りを募らせているように見える。

宇宙をめぐるロシアの恫喝が止まらない。

英国の衛星通信企業「ワンウェブ」の小型衛星36基が、3月5日にカザフスタンのバイコヌール宇宙基地からロシアのロケットで打ち上げられる予定だったが、ロシアは英企業に難題をふっかけて事実上拒否。英企業は打ち上げ予定を取り消した。

ワンウェブには、日本のソフトバンクも出資しており、ロケットの機体には日本など出資国の国旗が描かれていた。ロシアの作業員がそれを白いカバーで覆い隠すという、あからさまな嫌がらせもした。

フランス領ギアナにある欧州の宇宙基地では、今春、欧州がロシアのロケットで測位衛星を打ち上げる予定だった。しかし、ロシアが作業者や技術者を一斉に引き上げたため、衛星の打ち上げは不透明な状態になった。

「ISSが地球に落下しかねない」と警告

宇宙飛行士が滞在するISSについても、ロシア国営宇宙開発企業「ロスコスモス」のロゴジン社長は「われわれとの協力を閉ざすなら、(ISSが)軌道を外れ地球に落下する事態を誰が救うのか」「地上か海に落下しかねない」などと繰り返しツイッターに投稿した。ロシアの飛行士がISSに滞在中であるにもかかわらずだ。ロシア製エンジンを使っている米企業の大型ロケットについても、納入停止をちらつかせた。

ロシアのこうした言動は外部からはなんとも不可解に見える。1957年に世界で初めて衛星「スプートニク1号」を打ち上げ、61年にガガーリン少佐が世界初の有人宇宙飛行に成功したロシアにとって、ロケットやISSなどの宇宙技術は、稼ぎのタネだ。

ロシアのロケットは長年の改良を重ねたこともあり性能は安定しているが、最先端の機能がなく「枯れた技術」と評される。ミサイルを転用したロケットも使っていた。このため価格が安く、日本の大学、ベンチャー企業など、海外勢もロシアのロケットを利用してきた。昨年の前澤友作さんのように、ロシアに大金を払って宇宙飛行やISS滞在をする人もいる。

だが、理不尽な恫喝を重ねることで、ロシアの宇宙技術の利用はリスクが大きいと世界に知らせてしまった。今後、お客は減るだろう。まさに自爆。ウクライナ侵攻をめぐって、プーチン大統領が何を考えているか分からないとさかんに指摘されているが、宇宙をめぐっても同じ状況になっている。

中国と米国に抜かれたロシアの行き詰まり

恫喝が奏功するには、「ロシアなしに世界の宇宙開発は成り立たない」という圧倒的な影響力をロシアが持っていることが必要だ。しかし、今はそうなっていない。

中国が膨大な国家予算を投じて着々と宇宙開発の力を蓄え、米スペースXなどの宇宙ベンチャーが次々と登場し、活躍する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、G7日程切り上げ帰国へ 中東情勢に対応

ワールド

G7、イスラエル支持を表明 「イランは不安定要因」

ワールド

EU、27年末までにロシア産ガスの輸入禁止へ 法的

ビジネス

日本郵便、運送事業の許可取り消し処分受け入れ 社長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?.…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中