最新記事

中国経済

習近平はなぜ、中国が40年かけて築いた「成長の土壌」と「富」を捨てるのか?

Heading Toward Stagnation

2022年2月9日(水)17時45分
ダイアナ・チョイレーバ(英調査会社エノド・エコノミクスの主任エコノミスト)
北京五輪の習近平

北京五輪の開会式に出席した習近平 Pool via REUTERS/Anthony Wallace

<北京五輪が華やかに開幕したが、その一方で中国共産党は「共同富裕」を実現させるため40年来の成功をドブに捨てようとしている>

2008年の夏季五輪の開催都市・北京で、2月4日に冬季五輪が始まった。雪不足も何のその、中国共産党は55発のロケット弾で人工雪を降らせるなど、文字どおり山をも動かす勢いだ。

しかし習近平(シー・チンピン)国家主席は今、人工雪を降らせるよりもはるかに困難な課題に直面している。安定成長を維持しつつ、所得格差を減らす「共同富裕(みんなで豊かになろう)」の実現だ。

前回、北京の会場に聖火がともったとき、当時の国家副主席だった習は五輪の最終準備を指揮していた。その後に習の指導下でじわじわ進んだ政治と経済の変化のせいで、今や鄧小平の改革開放の成功を支え、高度成長の原動力となってきた重要な要素が損なわれる事態になっている。

習は漢民族の再興を意味する「中国の夢」の実現を誓い、実利主義と成長ではなく、国家安全保障とイデオロギーを重視する姿勢を取った。さらに昨年、「共同富裕」のスローガンを提唱。所得格差を是正し、中間層を増やし、中小企業の技術開発を支援する、50年代の毛沢東主義のアップデート版とも言うべき構想を経済政策の中核に据えた。

所得と資産の格差是正を目指すのは結構なことだが、習のやり方で格差を解消しようとすれば、過去40年間中国の開発モデルを支えてきた最も重要な2つのファクターを損なう危険性がある。民間活力と、「失敗を恐れずやってみる」大胆な実験精神だ。

大企業「いじめ」という愚策

アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)をはじめ、中国の起業家たちが以前から警戒していたように、習は国家の利益に資する限り民間部門の存在を容認するが、大企業でもその条件に不適合と見なされる可能性が常にある。実際、習はこの1年、共産党を脅かすとみて、大企業への締め付けを強化してきた。

共同富裕の中核には、都市部の雇用の80%を担う中小企業を支援し、勤勉とイノベーションを通じて豊かさを実現する構想が据えられている。習は究極的には、ドイツ経済を支える「ミッテルシュタント(中小企業)」のように、イノベーションに注力し、高付加価値製品を製造し、高賃金の雇用を創出する中小企業群を育成したいのかもしれない。しかし質素倹約と富の再配分を説きつつ、それを実現するのは無理な注文だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、米の10%関税受け入れ報道を一蹴 現段階で

ワールド

G7、移民密輸対策で制裁検討 犯罪者標的=草案文書

ワールド

トランプ氏「ロシアのG7除外は誤り」、中国参加にも

ワールド

トランプ氏、イランに直ちに協議呼びかけ 「戦いに勝
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 7
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    コメ高騰の犯人はJAや買い占めではなく...日本に根…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中