最新記事

追悼

【再録:石原慎太郎インタビュー】アメリカ人の神経を逆なでした男~石原慎太郎はなぜ『「NO」と言える日本』を書いたのか

Strong Words from Japan

2022年2月1日(火)18時25分
ジェフ・コープランド、ドリアン・ベンコイル
石原慎太郎

2月1日に89歳で死去した石原慎太郎・元東京都知事(2003年)Issei Kato/Reuters

<石原慎太郎・元東京都知事が死去した。芥川賞作家として鮮烈にデビューした後、政界に転じた石原氏は1989年にソニーの盛田昭夫会長と『「NO」と言える日本』を出版。貿易摩擦問題を抱える日米関係に大きな一石を投じた。本誌1989年11月23日号に掲載した記事とインタビューを再録>

~アメリカを駆けめぐる海賊版『「NO」と言える日本』・米国人の神経を逆なでした盛田昭夫と石原慎太郎の共著~(1989年11月23日号)

Obit-Ishihara_book220201.jpg最近アメリカの有力者の間でこれほど有名になった本も珍しい。ワシントン・ポストは「反撃すべき点が多い」と評し、ニューヨークタイムズも「ワシントンの必読書」と書き立てた。

二人の著者はさぞかしサイン会や印税の計算に忙しいだろうと思いきや......。意外なことに、1人は書いたことを後悔し、両人ともアメリカからの印税は1セントも受け取っていないという。

事実、この「本」は(実はタイプ原稿をコピーしたもの)は、まだアメリカのどの書店でも売られていない。今年初めに光文社が出した『「NO」と言える日本』(盛田昭夫ソニー会長と石原慎太郎衆議院議員共著)の英訳海賊版なのである。

翻訳したのはCIA(米中央情報局)のアナリストだとか、ペンタゴン内部の人間だなどと噂されている。いずれにせよこの海賊版が、加熱ぎみの日米関係の新たな火ダネとなったことだけは確かだ。

米国版地下出版(サミズダード)は2、3カ月前に連邦議会に現れ、シリコンバレーや大学関係者を経由してマスコミの手に渡った。その最もきわどい部分――とくに石原語録――は、アメリカ人に格好の話題を提供している。たとえば「ヒステリックなアメリカ議会は信用できない」、在日米軍はときに「狂犬」のようだ、など......。

激怒したり、わが目を疑ったり、アメリカ人の反応はさまざまだが、ついに日本人の本音が出たとひそかに思っている向きもあるようだ。

リー・アイアコッカ・クライスラー会長は、こう反撃した。「この本のヒステリックな論調は傲慢な愛国主義者を思わせ、アメリカ人の多くは侮辱されたと感じるだろう」

石原は、この共著で次のように説いている――日本は経済力に見合う世界的な政治力を身につけ、対米交渉では、世界の半導体市場における影響力を行使すべきだ。また日米摩擦のほとんどの部分は、白人優位の思想から脱却できないアメリカ側に責任がある......。

盛田は、アメリカ人は「物をつくるということをだんだん忘れてきている......マネー・ゲームとかM&A(合併・買収)で儲けることに味をしめたからだ」と書いた。

とにかく日本はアメリカに「ノー」と言えるようになるべきだというのが、2人の一致した意見だ。

それによって、日本とアメリカの「逃れられない相互依存」関係に横たわる暗雲を一掃できると、盛田は考えている。一方の石原はアメリカ離れを主張し、防衛力の対米依存を減らしてアジアとの関係を強化すべきだと考えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

韓国通販大手クーパン、3370万人分の顧客情報流出

ワールド

中国製造業PMI、11月は49.9に低下 予想も下

ビジネス

データブリックスが増資交渉中、評価額1340億ドル

ワールド

韓国、11月輸出は予想上回る 半導体・自動車がけん
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中