最新記事

羽生結弦

【独占インタビュー】名コーチ、ブライアン・オーサーが語る羽生五輪3連覇の可能性

2022年2月5日(土)17時20分
スーザン・ラッセル(インターナショナル・フィギュアスケーティング誌発行人)
羽生結弦とブライアン・オーサー

多くの一流選手を育てたオーサー(右)にとっても羽生は別格の存在(2017年10月) Alevander Fedorov-REUTERS

<羽生結弦が4回転アクセルにかける思い、彼の強靭なメンタルの秘訣について10年来の師が語った>

ついに開幕した北京冬季オリンピックで五輪3連覇を目指す男子フィギュアスケートの羽生結弦選手。世界の頂点に立ち続けてきた彼を2012年から指導してきたのが、カナダ人コーチのブライアン・オーサーだ。

多くの一流選手を育てたオーサーにとっても、羽生は別格の存在。2人の出会いから北京での金メダルの可能性まで、インターナショナル・フィギュアスケーティング誌発行人のスーザン・ラッセルが話を聞いた(インタビューは1月26日、カナダ・トロントで電話で行われた)。

* * *


──指導を始めた当初から羽生に特別なものを感じていた?

実はそれ以前から、彼には特別な何かがあると気付いていた。世界選手権初出場となったフランス・ニース大会(12年)で、彼は3位に入った。見事なフリープログラム(「ロミオ+ジュリエット」)で、まさに「羽生らしさ」が全開だった。若くて、才能豊かで、生き生きとしていて──どれも教えられるものではない。

──どういう経緯でコーチを務めることになったのか?

(12年4月に)世界フィギュアスケート国別対抗戦のために日本を訪れた際、会合が設定されていた。私には事情がさっぱり分からなかったが、空港で出迎えられて都内のレストランに連れていかれた。部屋に入るとユヅルがいたんだ。すごく驚いた。彼は素晴らしいシーズンを終えたばかりだったから。通訳を介して「なぜこんなことを?」と尋ねたら、彼は私のチームとハビエル・フェルナンデスと一緒に練習がしたいと言った。私は「OK、なるほどね」と。

トロント(カナダ)に来た当初の彼は粗削りだが、生まれつきの才能があった。それをうまく操れるようにする必要があった。私たちは彼のエネルギーを奪うのではなく、手なずけてコントロールしたかった。彼は自由な精神の持ち主だが、ひとたびその才能を生かせるようにしてあげたら、すぐに全てがうまく回り始めた。

──羽生がカナダに来た当初のジャンプのレパートリーは? その後はどう進化した?

初めはトリプルアクセルと4回転トウループができたが、その後なんでも飛べるようになった。彼にとって本当に大切なジャンプになった4回転サルコー、4回転ループ、4回転ルッツ。フリー後半での4回転トウ。フリー後半の4回転トウが2回になり、さらに(15年には)ショートプログラムでも4回転を2回飛べるようになった。あれは画期的だった。今では、トップスケーターたちがショートプログラムで4回転を2回飛ぶのは当たり前になった。

──羽生は多彩な4回転を取り入れたプログラムで男子フィギュアスケートを新たな次元に引き上げた。

その通りだ。彼は大きなリスクを取ることを恐れない。いつも期待通りにいくわけではないが、常にリンクに出て挑戦せずにはいられなかった。ユヅはいつだって即興の天才だった。それに数学の魔術師だ。プログラム冒頭でうまくいかないことがあると、その後のどこにコンビネーションジャンプを加えればいいか計算できる。彼は足で考えるんだ。

私はリンクを眺めながら「このプログラムは何だ? どうなっているんだ?」と思ったこともある。でも、得点が表示されると理解できる。

──約2年前に羽生が日本に戻ってからも連絡を取ってきた?

ああ、(昨年12月の)全日本選手権の前には、かなり頻繁に映像を受け取っていた。それを評価して、私の考えを送り返した。練習中の映像で、他の選手に邪魔をされて少し不安そうな様子が見えたことがあり、そのときは呼吸について彼と話をした。技術面でのフィードバックだけでなく、心構えや知恵のようなアドバイスもした。

──羽生は平昌五輪前の17年11月、けがでグランプリシリーズNHK杯を欠場した。昨年11月に同NHK杯とロシア大会を欠場したとき、4年前の再現だと感じた?

まさに。100%そう思った。気の毒だったが、彼なら乗り越えられることも分かっていた。全日本選手権まで時間がなかったし、日本には素晴らしいスケーターが何人かいるなかで、ユヅルは自分の席を勝ち取らなければならなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ

ビジネス

東京株式市場・大引け=続落、5万円台維持 年末株価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中