最新記事

中国

【鼎談】新型コロナ流行から2年、パンデミックは中国人を変えた──のか

2022年1月11日(火)14時23分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
新型コロナウイルス

中国のコロナ対策はハイテクより「社区」がカギ(2020年、武漢)Aly Song-REUTERS

<新型コロナウイルスの流行が始まって2年。世界最大の人口を有しながら、感染者数を10万人と小規模に抑え込んできた中国の「成功」は、共産党の強権支配だからできるハイテク監視がなせる業だと日本では考えられているが、果たしてそうか。高口康太×山形浩生×高須正和の3氏による鼎談>

ジャーナリストの高口康太氏が上梓した新刊『中国「コロナ封じ」の虚実――デジタル監視は14億人を統制できるか』(中公新書ラクレ)は、新型コロナウイルスの最初の流行地でありながら封じ込めに成功した中国について、社会体制、デジタル化、デマ対策など多方面から分析した本だ。

「専制政治が築いたハイテク監視社会でコロナを封じ込めた」と、日本で広く認識されている「中国の真実」は真実なのか。深圳の発展を通じて中国の社会や技術の変化を観察し続ける翻訳家の山形浩生氏、中国のメイカームーブメント(誰でもお金をかけず最新の技術を使ってものづくりに挑戦できるようにする活動)を支援する高須正和氏が、本書を読んで高口氏と鼎談した。以下、その一部を紹介する。

◇ ◇ ◇

山形浩生:拝読してまず一番面白かったのが、第1章で描かれている、中国のコロナ対策と監視社会についてです。「中国はインターネットを活用した監視社会を構築していて、さらに専制主義によって人々の動きはコントロールされている。だからコロナも封じ込められるのだ」というのが、日本における一般的な中国理解ではないでしょうか。

ところが、本書ではそんな安易なものではないと詳細に解説している。かつて日本にあったような隣組や江戸時代の五人組のようなコミュニティー管理の手法があり、さらに人々を監視するために膨大な数の監視員が動員されることによってコロナ対応が可能になったんだというわけです。

しかも、そうしたコミュニティー管理と動員の仕組みはもともと中国社会に用意されていたものではなく、新型コロナウイルスの流行後にリアルタイムで整備されていったものであり、いわば社会の構造が臨機応変に組み替わることによって実現したとのことです。

「専制主義では人民は簡単に統制できる」と安易に言われがちですが、人間ってそんな簡単に統制できるものではない。言うことを聞かないわけです。じゃあ、どうやって言うことを聞かせていたのだろうという疑問について、その答えをきわめて具体的に描いている。

高口康太:第4章で取りあげましたが、中国人作家の蒋方舟が「(コロナ対策に)人々がすんなりと従っていることに驚いた」と語っています。中国専門家の多くは同意するのではないでしょうか。「上に政策あれば下に対策あり」と表現される、政府の方針の裏をかくことに長けた中国人民が、社会生活に不便を強いる感染対策になぜあれほど従順に従ったのか、これは私にとっても衝撃でした。

世間の同調圧力が強く皆がルールを守ると言われることが多い日本でも、繁華街の人出をどう削減するかや、リモートワークを呼びかけても応じない会社をどう変えるかという課題に悩んでいたわけですが、ルールを守らないことに定評がある中国社会でどうやったのか。この疑問が本書の根底にあります。

【参考記事】日本人が知らない監視社会のプラス面──『幸福な監視国家・中国』著者に聞く

高須正和:社会が組み替えられているというのはまさにそのとおりです。私は中国に拠点を置いて3年になりますが、本書でコロナ対策の主役として描かれている「社区」(都市の基層自治体)について、コロナまではほとんど意識したことはなかった。それが社区の出入り口に検問ができ、市外に出張したならPCR検査を受けろなどと、細かく連絡してくるようになりました。

日本では中国のコロナ対策としてドローンや監視カメラの活用を紹介されることが多いようですが、ドローンで警告されても監視カメラがついていてもルールを守らないやつは守らないわけで、人間が監視しないと止めきれない。検問を作って、交代要員を含めて監視員を貼り付けてといったロジスティクスが課題になるわけですが、社区がどういう仕組みでこの体制を築いたかを解説したのは非常に興味深いポイントです。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン国会議長、米国との協議実施を否定

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、3月は‐16.3 原油高

ワールド

米エネルギー長官、戦略石油備蓄の追加放出は「可能性

ワールド

イランとの予備的協議は「非常に良好」、イラン側も和
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店員も「なすすべなし」の暴走モード
  • 2
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」した──イスラエル首相
  • 3
    「胸元を強調しすぎ...」 米セレブ、「目のやり場に困る」黒レースのドレス...豊胸を疑う声も
  • 4
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 5
    スウェーデン次期女王ヴィクトリア皇太子、陸軍訓練…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    「カメラの目の前」で起きた爆発の瞬間...取材中の記…
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    100年の時を経て「週40時間労働」が再び労働運動の争…
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ…
  • 9
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 10
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中