最新記事

ウイグル

ウイグル弾圧を「テロ対策」と呼ぶ中国の欺瞞を、世界は糾弾せよ

China's “War on Terror"

2021年9月23日(木)09時51分
イェハン(国外亡命中のウイグル人ライター、仮名)

ただし、実際にこの名前を使って活動したグループがあるという証拠はほとんどない。1998年にアフガニスタンでタリバンに支援を求めた小さなグループがそう呼ばれていたが、2003年に創設者が死んだ後は完全に活動を停止しているようだ。

アメリカは20年11月に、ETIMの存続を裏付ける証拠がないとして、テロ組織認定リストから除外した。中国はこれに対し、パフォーマンス的に怒りをあらわにした。

ウイグル人のテロリストや過激派などいないと言いたいのではない。14年に昆明駅で起きた無差別殺傷事件が物語るように暴力的な連中もいる。当然だ。ウイグル人は1200万人以上いるのだから。

だがウイグル人のテロ組織が中国内外で計画的な襲撃を行っているかと言えば、その証拠はあったとしても薄弱だ。共産党はひげを伸ばし質素な服を着た人間をテロ組織のメンバーと決め付けるが、これは自分たちが行っている残虐行為を正当化するための見え透いた歪曲にほかならない。

ウイグル人が苦しむのは自業自得だといった暗黙の感情があることも問題だ。確かにウイグル人の襲撃で罪のない人たち(その大半は漢族)が命を失う悲劇は繰り返されてきた。こうした襲撃には当然ながらウイグル人も非難の声を上げてきた。長年テロ組織呼ばわりされてきた国外のウイグル人グループもそうだ。

怒りの暴発を招く絶望

ただ、見過ごしてはならないのは、こうした事件が起きた背景だ。中国当局は何十年もウイグル人の文化、伝統、信仰、自由、さらには命まで奪おうと弾圧を続けてきた。悲しいことに、若い世代のウイグル人は「世界とはこんなものだ」と思い込んでいる。

中国では当局の理不尽な仕打ちに市民が異議申し立てをすることは不可能だ。ましてやウイグル人は、イリハム・トフティのような平和を愛する知識人でさえ逮捕され、テロリストの汚名を着せられる。こんな状況では、やり場のない怒りに駆られ暴力に走る者も出てくる。

09年のウイグル騒乱を契機に共産党が対テロ戦争のレトリックをさらに強調するようになると、それが自己充足的予言のようにテロを招いた。

私は安全なオーストラリアにいて共産党への怒りを英文記事に込められるが、完全に希望を奪われた何百万もの同胞がいることは痛いほど知っている。不幸にも、その中には暴力行為に走る者もいる。

もちろん、罪のない市民を殺す行為は許されない。だがごく少数のウイグル人が暴力に走ったからといって、ウイグル人弾圧はテロ対策だという共産党の欺瞞的な主張をうのみにしてはならない。

共産党は長年、ダブルスタンダード(二重基準)だとして、人権侵害に対する批判に耳を貸さなかった。アメリカが罪のないイスラム教徒をグアンタナモの収容施設に入れることは許されるのに、中国がテロ対策を講じれば弾圧だと言われる、というのだ。

彼らの言い分はもっともだ。いずれも許し難い行為であり、一方だけを非難するのはおかしい。アメリカがイスラム教徒に行った拷問も、中国の偽りの「対テロ戦争」も許してはならない。中国当局によるウイグル人虐殺を「テロ対策」などと呼ばないこと。まずはそこからだ。

ニューズウィーク日本版 トランプ関税15%の衝撃
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年8月5日号(7月29日発売)は「トランプ関税15%の衝撃」特集。例外的に低い税率は同盟国・日本への配慮か、ディールの罠

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米GDP、第2四半期3%増とプラス回復 国内需要は

ワールド

インドに25%関税、ロ製兵器購入にペナルティも 8

ビジネス

米四半期定例入札、8─10月発行額1250億ドル=

ワールド

ロシア、米制裁の効果疑問視 「一定の免疫できている
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 3
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い」国はどこ?
  • 4
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 5
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 8
    タイ・カンボジア国境で続く衝突、両国の「軍事力の…
  • 9
    中国企業が米水源地そばの土地を取得...飲料水と国家…
  • 10
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中