最新記事

テロ

新たな超大国・中国が、アメリカに変わるテロ組織の憎悪の標的に

China Is the New Target

2021年9月9日(木)17時02分
アブドゥル・バシト(南洋理工大学研究員)、ラファエロ・パンツッチ(英王立統合軍事研究所の上級研究員)

状況は今後、もっと深刻になるだろう。アフガニスタンからのテロ輸出を防いでいた米軍が撤退した以上、中国は自力で自国民の命と自国の利権を守らねばならない。

中国は従来も、アフガニスタンの南北に位置するパキスタンやタジキスタンで、軍事基地の建設や兵力増強を支援してきた。タジキスタンには中国軍の基地も置いた。アフガニスタン北部のバダフシャン州でも政府軍の基地を建設したが、これはタリバンに乗っ取られたものと思われる。

決して大規模な活動ではないが、全ては米軍の駐留下で行われた。米軍が治安を守り、武装勢力を抑止し、必要とあれば中国人を標的とする攻撃を防いでもきた。18年2月にはバダフシャン州で米軍が、タリバンやETIMのものとされる複数の軍事施設を攻撃している。

今後は、そうはいかない。イスラム過激派の怒りを一身に引き受けてきたアメリカはもういない。これからはイスラム過激派とも民族主義的な反政府勢力とも、直接に対峙しなければならない。

パキスタンのシンド州やバルチスタン州で分離独立を目指す少数民族系の武装勢力は、中国を21世紀の「新植民地主義国」と見なしている。中央政府と組んで自分たちの資源を奪い、今でさえ悲惨な社会・経済状況をさらに悪化させている元凶、それが中国だと考えている。

カラチでの中国人襲撃について名乗りを上げたバルチスタン解放戦線は犯行声明で、「中国は開発の名の下にパキスタンと結託し、われらの資源を奪い、われらを抹殺しようとしている」と糾弾した。

高まるウイグルへの注目

ジハード(聖戦)の旗を掲げるイスラム過激派は従来、アメリカと西欧諸国を主たる敵対勢力と見なしてきた。中国の存在は、あまり気にしていなかった。しかし新疆ウイグル自治区におけるウイグル人(基本的にイスラム教徒だ)に対する迫害が伝えられるにつれ、彼らの論調にも中国非難が増え始めた。

そうした論客の代表格が、例えばミャンマー系のイスラム法学者アブザル・アルブルミだ。

激烈にして巧みな説教者として知られるアルブルミは15年以降、米軍のアフガニスタン撤退後には中国が新たな植民地主義勢力として台頭すると警告してきた。支持者向けのある声明では「イスラム戦士よ、次なる敵は中国だ。あの国は日々、イスラム教徒と戦うための武器を開発している」と主張していた。

別のビデオでも、「アフガニスタンではタリバンが勝利した......次なる標的は中国になる」と言い放っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

為替円安、行き過ぎた動きには「ならすこと必要」=鈴

ワールド

中国、月の裏側へ無人探査機 土壌など回収へ世界初の

ビジネス

ドル152円割れ、4月の米雇用統計が市場予想下回る

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中