最新記事

アフガニスタン

アフガン撤退、バイデンの「テロ対処能力ある」に批判が続出する理由

ISLAMIC TERRORISM AGAIN?

2021年9月2日(木)17時55分
マイケル・ハーシュ(フォーリン・ポリシー誌上級特派員)
バイデン大統領

カブール空港でのテロ攻撃に対し、報復措置を取ると言明したバイデン大統領(8月26日) AL DRAGOーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<タリバンが全土を制圧し、IS-Kの空港テロも起こった。アフガニスタン国内に軍事・情報拠点を失った今、テロとの戦いは振り出しに戻ったのか。アルカイダが米本土を再び攻撃する可能性はあるのか>

まるで振り出しに戻った感じだ。8月26日、アフガニスタンの首都カブールの空港周辺で自爆テロがあり、米兵13人を含む170人以上が死亡した。

過激派組織「イスラム国」(IS)傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」の犯行とされる。

20年間も戦ってきたのに、結局アフガニスタンはイスラム主義勢力タリバンの手に落ちた。そしてアメリカは、2001年9月11日の同時多発テロと変わらぬ不気味な脅威に直面することになった。

いや、そんなに切迫した脅威ではない、今の米軍や情報機関には「地平線のかなたから」テロリストの脅威を察知し、排除する能力があると、バイデン米政権は強弁している。

8月23日には国家安全保障担当の大統領補佐官ジェイク・サリバンが言っていた。

「大統領が繰り返し述べてきたように、わが国の対テロ能力は現地に数千なり数万なりの地上部隊を配備しなくても脅威を抑制できるレベルまで進化している」

あいにく、そうは言い切れない。

確かに米軍は26日の襲撃の前兆をつかみ、事前に米国民を空港付近から退避させていた。だがテロを未然に防ぎ、敵を排除するだけの能力はなかった。

なにしろ今のアメリカには、アフガニスタン国内でテロの脅威の芽を摘むのに必要な軍事基地も、現地のスパイ網もない。

与党・民主党内部からも、大統領の見方は甘過ぎるという指摘がある。

米軍が完全撤退すれば、現地におけるアメリカの「目と耳」の多くが失われるのは当然のこと。「正直言って当惑している」。事実関係をよく知る立場の民主党幹部は匿名を条件に今回の大統領発言について語った。

だが事情通によると、CIAも国防総省も、撤退期限が発表された4月以来、こうしたリスクを承知していた。

ある匿名の当局者によれば、「政府の公的プレゼンス縮小を想定して、CIAは現地の情報収集能力を維持すべく複数のパートナーと接触してきた」。

中には、アメリカの情報機関にとって「あり得ない」はずだった相手もいる。20年来の不倶戴天の敵、タリバンである。

アメリカは今、必死でタリバンとの対話ルートを探している。当座の目的は米国民や現地協力者の国外退避の安全を確保することにあるが、もっと先を見据えた協議も進んでいるようだ。

自爆テロの数日前には、カブール入りしたCIA長官のウィリアム・バーンズがタリバン側の交渉担当者アブドル・ガニ・バラダルと会談している。かつてCIAの通報でパキスタン当局に逮捕され、8年も収監されていた人物だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 27年6月適用開始=

ビジネス

米耐久財受注、10月は2.2%減に反転 コア資本財

ワールド

米当局、中国DJIなど外国製ドローンの新規承認禁止

ビジネス

米GDP、第3四半期速報値は4.3%増 予想上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 6
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 7
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 8
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中