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タリバンと米軍が「反テロ」で協力か──カブール空港テロと習近平のジレンマ

2021年8月28日(土)11時15分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

1.タリバンは、テロ対策の問題でアメリカに友好的な姿勢を示しているが、これによって「タリバンがテロとの関係を断ち切った」ことを示すことにもつながる。したがってタリバンはしばらく、この有利な形を利用するだろう。

2.一方では、何らかの形で米国との協調を続けるだろう。同時に、今後、こうした反テロやその他の手段を用いて、タリバンは、西側諸国を始めとした多くの国々がアフガニスタンの復興や社会秩序の維持を含めた経済のために、必要な援助を(アフガニスタン政府に提供したのと同様に)継続してタリバン政府に対しても提供してくれるよう求めるだろう。

3.したがって、現状はタリバンにとって相対的に有利なのではないだろうか。

習近平のジレンマと計算

中国共産党管轄下のCCTVでこのように言ってしまっていいのだろうかと思うほど、これは実に「きわどい」話だ。

アメリカと協力しながら、中国が要求する「テロ活動がない状況」を現出した場合、中国のメンツはアメリカに対して損なわれる。

しかし、米軍はアフガニスタンの地から「撤収する」わけだから、もし「テロ組織」を撲滅できたならば、再びアフガニスタンに居座る可能性はゼロだと習近平は踏んでいるだろう。

一方、バイデン大統領は必ず米軍を8月31日までに撤収させると言っているのだから、米軍がタリバンと協力してテロ組織撲滅に従事することなどできないと思うのが常識的な反応だろう。しかし、おそらくタリバンもピンポイント的に「テロ組織撲滅」という目的にのみ特化した部隊を残すことには賛同するだろうし、遠隔操作という方法もある。何らかの方法を考えるのではないかと推測される。

そんな「夢のようなこと」があるはずがないだろうと思われる方は、"CIA head holds secret meeting with Taliban's top political leader as chaotic Kabul evacuation continues(混乱するカブールでの避難生活が続く中、CIA長官がタリバンの政治的リーダーと秘密の会合を持った)"をご覧になると、少し信憑性が湧くかもしれない。

万一にも、本当にテロ組織撲滅をアメリカとの協力においてタリバンが成し遂げることができた暁には、中国は8月19日にタリバンが建国宣言をした「アフガニスタン・イスラム首長国」を「国家」として承認し、経済支援に着手する計算ではないだろうか。

事実、今年4月25日に新華社は、アフガニスタンが最も必要としている食糧支援を行う協定書(緊急食糧援助プロジェクトの引き渡し)に署名した発表しているのだから、まず食糧支援から始めて、投資を開始していくものと考えられる。

「格好の悪さ」を甘んじて受けても、経済連携という「実」を取る。

そして敗残兵のような混乱をもたらした米軍は、撤退後にタリバンと協力してテロ組織撲滅に貢献し、「名誉ある撤退」を飾って去っていくのだろうか。

歴史の皮肉を実感しながら、しばらく成行きを観察し続けたい。

注:ロイター電のリンク先の内容が、時々刻々変わっていっているようなので、数字が必ずしも一致しない場合がある。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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