最新記事

アフガン情勢

タリバン、アフガニスタン首都掌握から1週間 食品高騰で市民は困窮、銀行は閉鎖

2021年8月24日(火)10時13分
タリバンのメンバー

イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。写真はタリバンのメンバー。カブールで17日撮影(2021年 ロイター)

イスラム主義組織タリバンがアフガニスタンの首都カブールを瞬く間に掌握してから1週間が過ぎた。銀行は閉まったままで、食品価格は跳ね上がり、職を失って日々の暮らしと格闘する人々の数が日に日に増えている。

数千人の群衆が空港の入り口に押し寄せ、カブールを脱出するための席を確保しようと争う光景は、西側を後ろ盾とした政権が崩壊した後の混乱ぶりを何より鮮明に印象付けた。

しかし日がたつにつれ、食糧や家賃といった日々の心配事が見通しの暗さに輪を掛けるようになっている。この国のぜい弱な経済は国際支援の消滅によって打ちのめされた。

「途方に暮れている。何を真っ先に考えるべきなのか分からない。自分の身を安全にして生き延びることか、それとも子どもと家族を食べさせることなのか」と語るのは元警察官だ。妻と4人の子どもを養っていた260ドル(約2万8600円)の月給を失い、今は身を隠している。

男性はこの2カ月間、給与を受け取っていない。下位の公務員の多くがそうした状態だ。

「私が住んでいるのは賃貸アパート。この3カ月間、大家に家賃を納めていない」と語る。

この1週間は妻の指輪とイヤリングを売ろうと試みたが、他の多くのビジネスと同様に金市場も閉鎖されており、買い手は見つけられない。「お手上げだ。どうすれば良いのか分からない」とため息をつく。

タリバンがカブールを制圧した15日より前から状況は悪化していた。タリバンが地方都市を急スピードで進攻したことで通貨アフガニはドルに対して急落し、基本的な食料品の価格をさらに押し上げた。

小麦粉、食用油、米などの価格は数日間で10―20%も上がり、銀行が閉まっているため多くの人々は貯蓄を引き出すこともできない。国際送金サービス、ウエスタン・ユニオンの事務所も閉じたので、海外からの送金も途絶えた。

捕まるのを恐れて身を隠している元政府職員は「すべてはドルの状況のせいだ。中には店を開けている食料品店もあるが、市場は空っぽだ」と嘆く。

隣国パキスタンとの主要な国境沿いで交通は再開したものの、国全体が厳しい日照り続きで、多くの人々の困窮に追い打ちを掛ける。テントや仮設シェルターで生き延びようと、数千人の人々が都市を目指している。

複数の国際支援団体は22日、アフガン向けの商業航空便が停止されたため医薬品その他の支援物資を届ける手段がないと訴えた。

地方の窮状は日増しに都市部にも波及するようになり、下位中間層を直撃している。この層は前回のタリバン政権が終わってからの20年間、生活水準の向上を経験してきた。

「何もかも終わった。倒れたのは政府だけではない。私のように1万5000アフガニ(200ドル)前後の月給に頼って暮らしていた数千人も同じだ」と、別の元政府職員は語る。

「この2カ月間というもの政府が給料を払ってくれず、私たちは既に借金を背負っている。高齢の母は病気で薬が必要だ。子どもと家族は食べ物が必要だ。神様お助け下さい」と悲痛な声を上げた。

(James Mackenzie記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・タリバン大攻勢を生んだ3つの理由──9.11以来の大転換を迎えるアフガニスタン
・タリバンが米中の力関係を逆転させる
・<カブール陥落>米大使館の屋上からヘリで脱出する「サイゴン陥落」再び


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ

ワールド

スーダン、人道危機リストで3年連続ワースト1位 内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中