最新記事

スパイウェア

イスラエル企業開発のスパイウェア 世界中の記者や活動家を監視か

What We Know About Alleged NSO Group Malware

2021年7月20日(火)19時21分
ゾーイ・ストロゼウスキ
殺害されたジャマル・カショギ

「ペガサス」は2018年に殺害されたジャマル・カショギの妻や婚約者のスマホにも侵入していた Middle East Monitor/Handout via REUTERS

<流出した「監視対象リスト」には約5万件のスマートフォンの番号が掲載されていた>

イスラエルのサイバー企業「NSOグループ」が犯罪監視用に開発したスパイウェア「ペガサス」が外国の政府などに販売され、世界中のジャーナリストや活動家、弁護士らの監視に使われていたらしいことが分かった。流出した監視対象リストには、約5万件の電話番号が掲載されていたという。

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが標的とされた電話番号リストを入手し、主要メディアにリークしたことをきっかけに、疑惑が発覚。リストに掲載されていたのは、NSOグループの顧客が関心を抱いていた人物とみられる。

BBCによれば、標的にされたとみられる約5万件の電話番号のうち、実際にどれだけの電話(スマートフォン)に「ペガサス」がインストールされていたかは分かっていない。ペガサスは侵襲性の高いスパイウェアで、標的のスマートフォン内のデータへのアクセスはもちろん、カメラやマイクの機能を強制的にオンにして情報を入手することができる。

NSOグループは疑惑を否定しており、ウェブサイト上に声明を発表。犯罪やテロ活動の監視目的でペガサスを使うことが許されているのは、軍と法執行機関、および諜報機関のみだと主張した。だがアムネスティ・インターナショナルと非営利団体「フォービドゥン・ストーリーズ」による調査では、「ペガサス」はiPhone 11および12への侵入に成功しており、何千台ものスマートフォンが感染している可能性があることが分かっている。

主要メディアのジャーナリスト180人超がリストに

アムネスティの技術部門であるアムネスティ・テックのダナ・イングルトン副部長は報告書の中で、「これらの攻撃により、世界中の活動家、ジャーナリストや政治家が自分の居場所を監視されたり、個人情報を悪用されたりするリスクにさらされている」と指摘した。

今回の調査報道について、NSOグループは「無礼で現実とかけ離れた内容だ」と反論し、名誉毀損での訴訟を検討していると述べた。また同社は、アムネスティ・インターナショナルの調査方法についても疑わしいと主張したが、調査についてはトロント大学の研究所「シチズンラボ」が独自にレビューを行い、正当なものだと確認している。

NSOグループの創業者で最高経営責任者(CEO)のシャレフ・フリオは、ワシントン・ポスト紙とのインタビューの中で一連の報道に反論。だが疑惑については「気掛かり」であり、調査を行うとも述べた。

「システムの悪用に関するどんな疑惑も、気掛かりだ」と彼は同紙に述べた。「疑惑があれば、顧客からの信頼が損なわれることになる。我々は全ての疑惑について調査を行い、疑惑が真実だと分かれば、断固たる措置を取る」

BBCによれば、複数のメディアが流出した「監視対象リスト」を調べた結果、リストにはCNNやニューヨーク・タイムズ紙、アル・ジャジーラなどの組織に所属する180人以上のジャーナリストが含まれていた。合わせて50カ国の1000人以上が、「ペガサス」の標的にされていた可能性があるという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中