最新記事

インド

インドの庶民を激怒させたビル・ゲイツ...大富豪はこの国に何をした?

Indians Angry at Bill Gates

2021年7月1日(木)20時25分
アクシャイ・タルフェ

210706P40people_IND_02.jpg

ムンバイのワクチン接種センターで、マスクをして順番を待つ人々 NIHARIKA KULKARNIーREUTERS

しかし、この政策については国連人権高等弁務官事務所の「水と衛生特別報告者」が2017年に現地調査の総括報告書で、野外排泄の撲滅を口実とした人権侵害は許されないと批判していた。

国内外の人権擁護団体の多くも、モディへの授賞には反発した。民主的な手続きで選ばれたとはいえ、首相が独裁色を強め、国民の自由を封殺していたからだ。それでもゲイツ財団はモディへの授賞を強行したのだった。

ゲイツは19年11月にインドを訪れ、モディや複数の政府高官と会談している。このときモディは、保健・家族福祉省とゲイツ財団が国内の保健行政分野で協力するという覚書にお墨付きを与え、同財団はインドの保健行政に深く関わることになった。

当時の内相ラジナート・シンは首都ニューデリーでゲイツに会い、左翼過激派勢力の暴力で荒廃した東部の村落1000カ所を対象に衛生状態の改善事業を進めるよう持ち掛けている。

滞在中、ゲイツは通信社PTIの単独インタビューに応じ、インドのワクチン製造能力を絶賛。大手3社(SII、バラット・バイオテック、バイオロジカルE)の名を挙げた。いずれもインド政府の進めるコロナワクチン接種計画で莫大な収益を上げている。

不当利益批判を受ける企業に助成金

またSIIは12年11月からゲイツ財団の助成を受けており、20年10月にも400万ドルを受け取った。バラット・バイオテックも19年11月にゲイツ財団から1900万ドルの資金を受け取った。バイオロジカルEも13年からゲイツ財団の助成を受けており、21年4月には別途3700万ドルを受け取っている。

これら3社は英アストラゼネカの開発したワクチンを受託生産し、インド政府に売っているが、国内では評判が悪い。製造設備のトラブルなどで供給が滞りがちだし、売り渡し価格が高過ぎる、各社が不当な利益を得ているとも批判されている。

ゲイツ財団やインド政府から潤沢な資金援助を受けた各社が、新型コロナの感染爆発に乗じて大儲けしている(野党・インド国民会議派の試算によれば合計で170億ドル)という構図だ。

連邦最高裁や市民、政治家からの批判を受けて、モディは国の予防接種計画のいくつかの条項を見直し、不当利得行為を防ぐためにワクチン価格に上限を設けた。それでも14億の国民にワクチンを届けるには多くの課題が残る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シタデルがSECに規制要望書、24時間取引のリスク

ワールド

クルスク州に少数のウクライナ兵なお潜伏、奪還表明後

ビジネス

ノルウェーのエクイノール、米風力事業中止で数十億ド

ワールド

北朝鮮、ロシア国境の架橋着工を評価 経済関係強化へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中