最新記事

未来予測

人類は2040年代をピークに破滅? 世界に衝撃を与えたレポート「成長の限界」を再検証

2021年7月21日(水)20時02分
松岡由希子

世界に衝撃を与えたレポート「成長の限界」を再検証したところ・・

<あの「成長の限界」の発表からおよそ半世紀が経った今日、社会の見通しはどのようになっているのだろうか...... >

世界に衝撃を与えた「成長の限界」は、スイスの民間シンクタンクのローマクラブが米マサチューセッツ工科大学(MIT)のデニス・メドウズ博士らの国際研究チームに委託し、1972年に発表した報告書だ。

「2040年代頃にピークに達し、その後、急激に衰退する」

この報告書では、人口、食糧生産、工業化、環境汚染、枯渇性資源の消費量という5変数に基づくコンピュータモデル「ワールド3」によって地球と人間システムとの相互作用の結果をシミュレーションし、「世界人口、工業化、環境汚染、食糧生産、資源の枯渇における現在の成長トレンドがそのまま継続すれば、今後100年以内に地球の成長は限界に達する」と予測。


matuoka20210721b_.jpg

「成長の限界―ローマ・クラブ「人類の危機」レポート」:ドネラ・H.メドウズ

特段の対策を講じない「BAUシナリオ」では「世界の経済成長は2040年代頃にピークに達し、その後、急激に衰退する」ことが示された。

2019年時点のデータで4つのシナリオに沿って分析したが......

それでは、「成長の限界」の発表からおよそ半世紀が経った今日、社会の見通しはどのようになっているのだろうか。

世界四大会計事務所のひとつ「KPMG」でディレクターを務めるガヤ・ヘリントン氏は、2019年時点の経験的データを用いて「成長の限界」の予測を検証し、2020年11月3日、学術雑誌「ジャーナル・オブ・インダストリアル・エコロジー」で研究論文を発表した。

この研究では、人口、出生率、死亡率、1人あたり工業生産高、1人あたり食糧、1人あたり教育・医療サービス、枯渇性資源量、環境汚染、人間福祉、エコロジカル・フットプリント(EF)という10変数をもとに、「BAUシナリオ」、天然資源がBAUシナリオの2倍であると仮定する「BAUシナリオ2」、BAUシナリオ2のもとで技術発展とその適用が急速に進む「CTシナリオ」、CTシナリオをベースに社会的価値や社会的優先事項が変わる「SWシナリオ」の4シナリオに沿ってデータを分析した。

1626203862142-image3.png.jpeg

その結果、データは「BAUシナリオ2」や「CTシナリオ」に極めて近く、「今後10年以内に経済成長が止まる」ことが示された。これは、いずれのシナリオでも、経済成長を追求し続けることは不可能だということを示唆している。

特段の対策を講じない「BAUシナリオ2」はもとより、技術の発展やその適用がすすむ「CTシナリオ」でも、今世紀中に、産業資本や農業生産高の減少、福祉水準の低下は避けられない。

ただし、経済成長がピークに達した後、「BAUシナリオ2」では急激な衰退が予見される一方、「CTシナリオ」では比較的緩やかに衰退していく可能性がある。

技術的なイノベーションと社会的優先事項の転換の重要性

1626203843984-image2.png.jpg

4つのシナリオの中で「SWシナリオ」は現状と最もかけ離れていたものの、ヘリントン氏は、この研究論文で「技術的なイノベーションと社会的優先事項の転換によって、人類を『SWシナリオ』に戻すことは可能だ」と指摘。

ヘリントン氏は、そのための戦略として、成長そのものを目標としない「アグロース」を提唱している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、対中輸出を2月に

ワールド

トランプ政権、大使ら約30人召還 「米国第一」徹底

ワールド

ウクライナ巡る米ロ協議、「画期的ではない」=ロシア

ビジネス

アルファベット、クリーンエネ企業買収 AI推進で電
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中