最新記事

政府

コロナ禍で、結局は「大きな政府」が望ましいと結論付けられたのか

THE STATE’S NEW BALANCING ACT

2021年6月18日(金)11時19分
ジャイディープ・プラブ(ケンブリッジ大学ジャッジ経営大学院教授)
英サッチャー首相と米レーガン大統領(1985年)

「 小さな政府」論者のサッチャー(左)とレーガン(1985年) CHAS CANCELLAREーREUTERS

<適切な政府の規模と役割とは? パンデミックという危機と、デジタル化の発展の中で見直される古くて新しい議論>

1世紀以上もの間、盛んに論議されてきた問題が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて再び激論の対象になっている。すなわち、政府の規模と役割だ。

政府は社会生活やビジネス活動について関与の範囲をさらに拡大すべきか。それとも、政府の関与の増大は必然的に、自由の減少と無駄の増加を意味するのか。

自由意思論者(リバタリアン)は、政府は最良の場合でも無能で非効率的、最悪の場合は個人の自由に対する脅威になると考える。経済学者のフリードリヒ・ハイエクやミルトン・フリードマン、レーガン元米大統領やサッチャー元英首相が代表格だ。

その対極に、政府を本質的に善意ある存在と見なし、社会や経済への政府の影響力拡大を目指す一派がいる。バーニー・サンダース米上院議員、ギリシャの急進左派連合(SYRIZA)やスペインの政党ポデモスがいい例だ。

とはいえ今では、新たなデジタル技術や組織構造のおかげで、国家は政策効率性と市民の自由のバランスを取ることができる。これはパンデミックをはじめとする危機の際、とりわけ重要になる。政府が重大な役割を果たすべき時だからだ。

この20年間、インターネットやソーシャルメディア、スマートフォンなどの力で、民間部門はより少ない資源でより多くを実現できるようになり、さまざまな業界の在り方が一変した。そうした変革は、今や国家そのものに及びつつある。

監視強化や政府の権限拡大の懸念も

世界各国で政府が技術へのアクセスを手にし、政府が達成できることの規模と範囲は根底から変化している。その良し悪しはともかく、巨大な国家機構が迅速かつ低コストで構築できるようになった。

国家の機能という面で、こうした進展には主に3つの意味合いがある。

まず、よりよい行政サービスがより速く、より低いコストで提供可能になる。人口13億人超を擁するインド政府は国民全員に固有のデジタルIDを発行するシステムを1人当たり1ドル未満のコストで実現。わずか5年ほどで10億人以上をカバーした。

一方で気掛かりなことに、デジタルツールは管理・監視強化や政府の権限拡大にも利用できる。一例が、中国の社会信用システムだ。デジタル技術を用いて個人および企業の活動を追跡・格付けする制度で、評価結果が就職機会や資金調達、社会福祉へのアクセス、移動の自由を左右する。

さらに、民間部門に対する姿勢も問われる。強大なデジタルプラットフォームをいかに規制し、いかに企業と協力してイノベーションや包括的成長を促進するか、政策決定者は答えを出す必要がある。

効率性と市民の自由を守るべく、政府には4つの原則の遵守が求められる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32、経済状況が悪くないのに深刻さを増す背景

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 7

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中