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習近平の「愛される国」外交指示を解剖する

2021年6月4日(金)14時34分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

●その目的を果たすために「専門的人材隊伍(チーム)」を形成せよ。対外的な発言力システムを構築し、芸術を用いた宣伝活動を強化せよ。

●各レベルの中国共産党組織は、意識形態工作の責任体制を構築し、経費を投入せよ。

習近平の指示は毛沢東戦略の延長

上述のように、習近平の講話をじっくり読んでみると、これは「毛沢東の戦略」以外の何ものでもないことが見えてくる。「中国共産党がいかに人民の幸福を優先しており、いかに友好的であるか」を示していかなければならないという方針は、毛沢東が延安時代に編み出した戦法であって、これは決して目新しいものではない。

あの頃は、中国共産党は貧乏だったので、「宣伝活動こそが最大の武器」だった。

しかし、その宣伝工作活動により圧倒的多数であった農民を中国共産党側に引き寄せることによって当時の執政党である国民党との戦いである国共内戦に勝利したのだから、「宣伝活動こそが最大の武器である」という戦略は党の中心となり、今も変わっていない。

だからこそ、「文化の衣を着た」孔子学院を全世界に設置したのであり、世界中に「友好の衣を着た」中国人を潜り込ませ、主要国の政権与党の指導的役割をしている人物を懐柔しているのである。

今年は7月1日に中国共産党建党100年記念を迎えるので、それに向けた中国共産党の存在意義を一層強化していこうというのが主たる目的だ。

天安門事件の日を前に発言した狙いは?

6月4日は天安門事件の記念日に当たる。民主化運動が武力により弾圧されてから32年になる。香港では長年にわたり追悼会を行ってきたが、昨年の香港国家安全維持法(国安法)の施行後、初めて迎える6月4日を直前に控え、今年はついに香港の「六四記念館」を閉鎖に追い込んだ。

まさに習近平が中央政治局集団学習会を開催した前日の5月30日には、香港の民主派団体の一つである「香港市民愛国民主運動支援連合会」の主導でリニューアルオープンしたばかりだ。しかし中央政治局学習会が終わった翌日の6月1日に、香港政府当局は「六四記念館」に対して「公衆娯楽場所としての営業許可証がない」などを理由に同館を閉鎖に追い込んだのである。

同館が2014年に開館した時、私は中国語に翻訳された『チャーズ 出口なき大地』を同館に数十冊献本し、民主活動家らに自由に持って行くようにお願いしたことがある。当時はまだ大陸から同館への参観者がいて、それを手にした何名かの大陸の民主化活動家からメールを貰ったりしていたが、習近平政権の言論弾圧が厳しくなってから、メールの往復は完全に遮断されてしまった。

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