最新記事

米中関係

中国の台湾侵攻は起こりえない──ではバイデン強硬姿勢の真意は?

Don’t Hype Invasion Fears

2021年6月3日(木)20時34分
アミタイ・エツィオーニ(ジョージ・ワシントン大学教授)

あおりまくる米関係者

バイデン政権の当局者は、中国が近い将来、台湾に侵攻すると警鐘を鳴らす。米インド太平洋軍のフィリップ・デービッドソン司令官(当時)は3月に議会で証言し、中国が台湾に侵攻するという脅威は「向こう10年のうちに顕在化する。あるいは6年以内の可能性もある」と述べた。ただし、これらの年数を予測した根拠は示さなかった。

中国の脅威はもっと間近に迫っていると主張する声もある。スタンフォード大学フリーマン・スポグリ国際研究所の研究員であるオリアナ・マストロは「欧米の多くの観測筋は、中国が今後5~8年で台湾を攻撃できるようになると考えている。しかし人民解放軍の指導者たちは私に、準備は1年以内に整うと語った」と述べている。

確かに中国は、国内の少数民族や自国民を迫害している専制国家だ。それでも彼らは救世主的な、あるいは拡張主義的な野望を掲げているわけではない。

欧米の観測筋は、中国を「侵略的」と批判する。だが国連による「侵略」の定義は、「国家による他の国家の主権、領土保全もしくは政治的独立に対する......武力の行使」だ。

中国が侵略的だとしても、その対象は人が住んでいない岩の塊にとどまっている。南シナ海の多くの海域の領有権を主張しているが、それだけのことだ。インドとの小競り合いはすぐに収まり、フィリピンとの対立も大事には至っていない。

その一方で中国は、アメリカが核の先制使用を放棄していないことを認識しているはずだ。公表された対中戦争のシナリオには「総力を挙げて中国本土を攻撃すべき」と記されている。

中国は数世紀にわたって欧米諸国から屈辱を受けてきたが、長い時間をかけて地位を回復させた。台湾への野心と引き換えに、全てを失いかねないリスクを取るだろうか。

狂信的な愛国心は、火が付いたら鎮めるのは難しい。しかしアメリカがソ連を過大評価していたことは、思い出すべきだ。ソ連は結局、自らの重みに耐えかねて自滅した。あるいは、日本にすぐにでも追い抜かれると予測したアメリカの専門家たちがいたことも忘れてはならない。

反中国の大波にのまれていない人々は、今こそ声を大にして、中国と協調することで得られるものは大きいという事実を指摘すべきだ。その協調という言葉には、アメリカと中国が台湾をそっとしておくことも含まれる。

©2021 The Diplomat

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中