オーウェル的世界よりミャンマーの未来に投資しよう、「人間の尊厳」を原点に

2021年4月23日(金)17時56分
永井浩(日刊ベリタ)

こうした日本政府の対応に、キングストン氏は首をかしげる。「軍事クーデターに反対する抗議行動の規模をみれば、ミャンマーの人びとにとっては国軍こそ、暗黒面であり、民主主義と法の支配、基本的人権にとっての最大の脅威と言っても差し支えない」からだ。それなのに日本の価値観外交は、ミャンマーに関しては普遍的価値に目をつむろうとする。米スタンフォード大学アジア太平洋研究センター研究副主幹のダニエル・スナイダー氏によれば、軍政への制裁と圧力に反対する日本の空疎な詭弁に、バイデン政権は不満を募らせているという。

だが日本政府のこうした姿勢は、いまさら驚くことではなさそうだ。日本はこれまでにもアジアの国々で、誰が権力の座にあろうと意に介さず、その価値観外交になんらかの実質があるのか、それとも単なるブランド戦略なのではないのかという疑問をかきたててきた。タイでもカンボジアでも、手を組む相手が独裁者であり、その国の国民が望まない政権であろうと、日本の経済的利益と地政学的戦略にかなうなら問題ではなかった。「日本政府は民主主義や人権に反対はしないが、それを支持するために自らが何かを犠牲にする危険を冒そうとはしなかった」。クーデター後のミャンマーに対しても、その基本姿勢は例外ではなかった。

クーデターの直前に、国軍と長年にわたり経済的関係と密接な協力をつづけてきた日本ミャンマー協会の渡邊秀央会長が、スーチー国家顧問とミンアウンフライン総司令官をおとずれ、日本のミャンマーへの投資促進を話し合ったのは不思議ではない。氏や多くの日本人は同国への中国の影響がこれ以上強まるのを懸念し、それに対抗するために経済関係の拡大に熱を入れようとした。軍政と日本政府にとって、渡邊氏はうってつけの裏工作のチャンネルだったが、氏がミャンマーにおける民主主義体制への移行を促進しようとしたとか、民主主義の逆戻りを阻止しようとする努力を支持するという形跡はまったくみられない。「日本の経済界はミャンマーをアジアの最も有望なフロンティアと見ていて、そこで金儲けさえできれば、政治状況はどうでもよいのである」。

揺らぐミャンマー人の日本への好感度

それでは、こうした日本外交をミャンマーの人びとはどう見ているだろうか。在日ミャンマー人のナンミャケーカイン京都精華大学特任准教授のアンケート調査結果が、毎日新聞(3月25日デジタル版)で紹介されている。

彼女は民主化運動が全土にひろがった1988年に高校を卒業後来日し、立命館大学で学部、大学院修士、博士課程を修了した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中