最新記事

イスラエル

イスラエル政治が大混乱...その陰で「争点ですらなくなった」パレスチナ問題

The Real Losers of Israel’s Election

2021年4月14日(水)18時17分
バーナビー・パパドプロス

「イスラエルの次期政権は史上最も右派的になるだろう」と、米ブルッキングス研究所のナタン・サックスは言う。今回の選挙の主な争点はイデオロギーではなく、ネタニヤフ政権の是非だった。その支持・不支持は分かれたが、右派に賛同する有権者の票が過半数を占めた。

さらに、極右の宗教的シオニスト党が6議席を獲得しており、リクード主導の連立政権に加わる可能性がある。同党のべツァレル・スモトリッチ党首は「誇り高きホモフォーブ(同性愛嫌悪者)」を自称。党員はカハネ主義のイデオロギーを継承している。

カハネ主義とは、ユダヤ人至上主義を公然と唱え、神政国家イスラエルの建設を掲げるものだ。メイル・カハネ師が創設した極右政党「カハ」はイスラエルで90年代に非合法化され、米国務省から国際テロ組織に認定されている。

「リクード党のさらに右に位置する政治勢力の台頭によって、パレスチナ人の生活と居住権がいっそう危険にさらされている」と、人権団体「アダラ正義プロジェクト」のサンドラ・タマリ事務局長は言う。「パレスチナ人は、イスラエルにおける過激な暴力の標的になり続けるだろう」

極右の宗教的シオニスト党に投票したのは、有権者の中でも少数派にすぎない。その多くは、いずれ西岸のユダヤ人入植地に住むだろう。パレスチナ側は、今年に入り入植者による攻撃が増えていると主張しており、選挙結果を受け、入植者の過激な行動に拍車が掛かる恐れがある。

極右勢力の伸長は、対パレスチナ強硬派である議会多数派を相対的にソフトに見せる恐れもある。「極右は、パレスチナ自治区を全て編入して、イスラエルの主権を宣言したがっている」と、サックスは語る。

しかし「中道右派も、パレスチナに対するさらなる領土割譲や自治権拡大は認めたくない。タカ派に至っては、パレスチナ自治政府との一切の取引を嫌がっており、今やほとんどが2国家共存策に明確に反対している」という。

パレスチナの国家樹立に向けた動きは、ここ数年大きな逆風を受けてきた。2018年に当時のドナルド・トランプ米大統領が、アメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転したほか、これに抗議するパレスチナ人200人近くがイスラエル治安部隊の鎮圧で命を落とした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

2回目の関税交渉「具体的に議論」、次回は5月中旬以

ビジネス

日経平均は続伸で寄り付く、米国の株高とハイテク好決

ビジネス

マイクロソフト、トランプ政権と争う法律事務所に変更

ワールド

全米でトランプ政権への抗議デモ、移民政策や富裕層優
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中