最新記事

中国

王毅中東歴訪の狙いは「エネルギー安全保障」と「ドル基軸崩し」

2021年3月31日(水)11時41分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)
中国の王毅外相とアラブ首長国連邦のアブドラ外相(3月28日、アブダビ)

中国の王毅外相とアラブ首長国連邦のアブドラ外相(3月28日、アブダビ) WAM/REUTERS

中国の狙いに関して日本では対米対抗のためという画一化された分析が散見されるが、中国の真の狙いは自国の「エネルギー安全保障」と「石油人民元」構築にある。以下、順不同だが、重要なものから考察する。

イランとの25年間の協力協定が意味するもの

3月27日、中国の王毅外相とイランのザリフ外相が、25年間の経済、政治や貿易の強化等を謳った「包括的戦略パートナーシップ協定」に署名した。これにより中国はイランから25年間にわたって安定した石油の提供をイランから受けつつ、イランに対しては石油化学製品、再生可能エネルギーおよび原子力エネルギーインフラを始め民生インフラに関しても巨大投資を行う。

日本では王毅の一連の中東歴訪を、対米対抗を狙った新しい勢力圏の構築としか捉えてないが、中国のインサイダーからの分析は、これとはニュアンスを異にする。

というのはアメリカがまだオバマ政権だった2016年1月、習近平国家主席はイランやサウジアラビアおよびエジプトなどを歴訪しているからだ

ここには長期的戦略があり、「一帯一路」構築もさることながら、何よりも「陸路を経由した石油などのエネルギー資源の安全な確保」という目的がある。

中国は世界最大の石油消費国だ。

南シナ海におけるアメリカの「航行の自由」作戦により、いつ南シナ海ルートの運航が阻止されるか分からない。アメリカの「航行の自由」作戦の歴史は非常に古いが、近年、南シナ海において頻繁に適用されるようになったのは2015年10月からである。

そもそも1992年2月に中国は全人代常務委員会により「領海法」を制定し、尖閣(釣魚島)を含めた九段線を中国の領土領海とした。日本はこれに反論しなかったどころか、同年10月に天皇陛下訪中を実現させて中国の圧倒的な経済発展に大きく寄与したが、フィリピンは違う。

常に反論し続け、遂に2014年には裁判を起こした(常設仲裁裁判所)。

そのような経緯があるので、習近平が2016年1月に中東を歴訪した目的は「万一にも南シナ海の航行が阻害された時のエネルギー輸入の陸路確保」にあったことは歴然としている。今般の王毅中東歴訪はその流れの中にあるのであって、決して最近の対米対抗というような即席の反応ではない。

近況を反映しているのはイランに対するアメリカの制裁によって、イランの制裁対象となった銀行や企業が「米ドルによる取引が困難になった」という新しい側面である。

トランプ前大統領がイランの核合意から一方的に抜けて経済制裁を科し始めたことによって、イランの経済は壊滅的打撃を受けている。そこに中国が豊富な投資(4000億ドル相当)を持ってきただけでなく石油を大量に購入してくれる。イランとしては「人民元取引」を大いに歓迎し、「デジタル人民元」さえ射程に入れている。「イラン‐中国」銀行を設立するという情報もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中