最新記事

香港

国家安全法の水面下で聞いた「諦めない」香港人たちの本音

They Never Give Up

2021年3月24日(水)17時15分
ふるまいよしこ(フリーライター)

magHK20210324theynevergiveup-3.jpg

今年1月に逮捕された民主派47人の裁判が始まった(3月4日) LAM YIK-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

今回の滞在で、20人を超える友人や知り合いと会って話を聞いたが、その中で複数の人が異口同音にこう言うのを聞いた。

「中国がこう出ることは予想していた。でも、まさかこんなに速く全てが進むとは思わなかった」

この言葉を口にした人たちには共通点があった。彼らは皆、成人してから香港に移り住んだ中国出身者だった。

香港では、合法的に7年間居住すれば、国籍とは関係なく永久居民権(永住権)を手に入れられる。私の友人にはこの制度を利用して既に香港人になった人、そして今この瞬間もそれを目標に香港で暮らす中国出身者がいる。

驚き・決意・怒り・希望

その1人、Lは元中国系メディアの記者で、今は香港の大学で教えている。中国からの留学生を前に、なぜ香港がデモの道を歩まねばならなかったかを知ってもらうために知恵を絞り続けている。中国で刷り込まれた偏見をいかに打ち破るかが今の課題だ。

「中国にとって香港の国際性は最も大事な要素だったはず。習近平(シー・チンピン)はそれすらも犠牲にして自分の野望を打ち立てようとしているわけね。だから香港のデモを歪曲して国内に流布している。その情報の壁を打ち破るのは容易じゃないのよ。それでもやらなきゃならない。私は香港市民だから」

中国の少数民族地域出身のNは、「香港人は中国政府をよく知らない。中国国内のセンシティブなエリアで育った私はギリギリの『引き際』を常に意識しているけれど、ここの人たちは全くそれに頓着していなかった。だからレッドラインを踏んじゃったのよ」とため息をついた。

「私たちと違って、国家安全法下の生活は香港人には初めてのことだから今は必要以上に萎縮している。執行する側も香港人だから、国家安全法の施行に舞い上がって(取り締まりの)基準が常に変化しているのも問題ね」

「まだ中国人」のNは今後まず香港の永住権を取り、その後で海外に出ることも考えていると言った。

北京出身で中国系メディアで働くCは、武漢出身の夫と2人の子供と香港で暮らしている。

なんと新型コロナウイルスの存在が公になる直前まで夫の実家に里帰りしており、香港をたつ前から体調が悪く、武漢で診察してもらった医師がその後、コロナで亡くなったと聞いて仰天したという。

「私は仕事の都合上、親中派に近い立場だけど......林鄭行政長官の物言いは信じられない。私が武漢の病院にかかったとき、もうコロナ患者があの病院に駆け込んでいたのよ? 行政長官はなんでもかんでも中国政府の言うことを香港人に向けて言い続けている。うちの上海の記者ですら『中国製ワクチンは絶対に打たない』と言うのに、香港市民に『中国製ワクチンは安全だ』なんてよく言えるわね」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中