最新記事

米中関係

バイデンのアジア重視を示したキャンベル元国務次官補起用

Biden Makes His First Bold Move on Asia

2021年1月14日(木)18時03分
マイケル・グリーン(米戦略国際問題研究所アジア担当上級副所長、ジョージタウン大学教授)

知日派とも言われるキャンベル(中央、2013年の訪日時) Toru Hanai-REUTERS

<早くから中国の覇権拡大を警戒してきたキャンベルをインド太平洋調整官に起用したことで、新政権はアジアに関心がないという懸念は吹き飛んだ>

中国がアメリカの地政学的ライバルであることは今や明らかだ。アジア太平洋地域では、中国の覇権主義的な動きを警戒する日本、インド、オーストラリアが地域におけるパワーバランスを回復するため、アメリカの関与を切望している。にもかかわらず、アメリカがこの地域で中国との綱引きに負けつつあることは、多くの専門家が一致して認めるところだ。

トランプ政権も何もしなかったわけではない。中国の「一帯一路」に対抗して、自由貿易、法の支配、航行の自由を柱とする「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げはした。だがその一方で、TPP(環太平洋経済連携協定)から離脱し、在韓米軍の撤退をちらつかせ、ASEAN(東南アジア諸国連合)との協議をないがしろにするなど、アジア軽視の姿勢を見せつけ、自らその戦略の足を引っ張ってきた。

ドナルド・トランプ大統領は新型コロナウイルスのパンデミック対応で無能ぶりを露呈、退陣を目前して支持者を扇動し連邦議会議事堂への乱入を招くなど、世界におけるアメリカの指導力をどん底まで突き落とした。ジョー・バイデン次期大統領はそこから這い上がらなければならない。

日米同盟を強化した功績

これまでにバイデンが選んだ次期政権の国家安全保障チームのスタッフは全員、信頼に足る経験豊富な面々だが、彼らの専門は主に中東やNATOだ。そのためアジアでは警戒感も広がっている。バイデン政権が取り組むべき差し迫った課題は多い。しかも、オバマ政権の対中姿勢はアジアからすれば弱腰に見えたため、バイデンはアジアへの関与や中国との戦略的な競争にさほど注力しないのではないかとの懸念があるのだ。

そうした印象を吹き飛ばしたのが1月13日のニュースだ。政権移行チームは国家安全保障会議(NSC)にアジア政策を統括する重要ポスト「インド太平洋調整官」を新設し、アジア通で知られるカート・キャンベル元国務次官補をこの大役に据えることにした。

キャンベル起用は3つの点で、バイデン率いる次期政権のアジア政策に大きな影響を及ぼす。

第1に、キャンベルは早い段階から中国の覇権拡大を警戒し、同盟国や友好国と連携して、その動きを封じる戦略を提唱していた。1990年代半ば、クリントン政権下で国防総省のアジア担当幹部になった時点では、まだ地域情勢にはさほど詳しくなかったが、戦略的な直感はずば抜けていた。冷戦終結後にその意義の再定義を迫られていた日米同盟を、就任後2年足らずで強化することに成功し、今日の密接な日米防衛協力に道をつけた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

JPモルガン、欧州と中南米の銀行に注目=CEO

ワールド

シンガポール非石油輸出、9月は前年比+6.9% 予

ワールド

世界のエネルギー消費、50年以降も化石燃料が主流に

ワールド

「アンティファ」関与で初のテロ罪適用、テキサス州の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口減少を補うか
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    間取り図に「謎の空間」...封印されたスペースの正体は?
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 6
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 7
    疲れたとき「心身ともにゆっくり休む」は逆効果?...…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    ホワイトカラーの62%が「ブルーカラーに転職」を検討…
  • 10
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 1
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中