トランプ、大統領就任から4年で「分断国家と不安定化した世界」を残して去る
共和・民主両党の政権で国務省の顧問を務め、今はカーネギー国際平和財団に籍を置くアーロン・デービッド・ミラー氏は「米国の機能不全かこれほどあからさまになったことは近代の大統領制ではかつてないことだ」と述べた。
ホワイトハウスのディア報道官はロイターに対して書面で、トランプ氏の経済面の成果として、経済を回復軌道に乗せたことや規制緩和などを列挙。大統領はメキシコとの国境の警備を確実にし、米軍を再強化し、一部の軍隊を帰還させ、わずか数カ月で新型コロナワクチンの開発を成し遂げたと説明した。
一方、トランプ氏に対する人種差別を巡る批判については返答を避けた。
傷ついた米国の民主主義
確かにトランプ氏は共和党が最優先とする多くの課題に取り組んだ。
上院で過半数の議席を握る共和党のマコネル院内総務と連携し、最高裁判事3人、連邦判事200人余りを指名し、司法をさらに保守化させた。
トランプ氏は大型の法人税減税を導入。成長率は前オバマ政権時代よりも加速し、失業率は過去最低となった。
しかし、好調だった景気は新型コロナ流行による経済閉鎖で失速。失業率が上昇し、景気は約100年で最悪の落ち込みとなった。トランプ氏の任期中に増加していた国家債務は、任期の最終年に一段と膨らんだ。
トランプ氏は違法移民の取り締まりで支持層を作り上げたが、反トランプ派は進め方が厳しすぎると批判した。バイデン次期大統領は、イスラム教徒が過半数を占める国に対する入国禁止措置などトランプ氏の移民政策の多くを撤廃する方針だ。
またトランプ氏は外国向けに「米国第一主義」を標榜。地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」やイラン核合意などの国際協約について、離脱したり破棄したりした。トランプ政権は北大西洋条約機構(NATO)など強固な同盟関係を損なう一方、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩総書記など独裁者には甘かった。
しかし、中国に対する強硬姿勢は共和党だけでなく民主党からも支持を得た。トランプ氏は中国の輸入に多額の追加関税を課し、香港の民主化運動弾圧に絡んで香港当局者に制裁を科し、中国の通信大手に制裁を科した。ただ、中国との間で貿易戦争を起こしたことや、冷戦時代型の物言いは批判を浴びた。
離任直前の19日には、新疆ウイグル自治区で少数民族に対してジェノサイド(大量虐殺)と犯罪が行われたと認定した。
また、イスラエルとアラブの近隣4カ国の関係を正常化する歴史的な合意を仲介したことには賞賛が寄せられた。アフガニスタンやイラク、シリアなどの紛争地域では駐留米軍を縮小したが、2016年の選挙期間中に約束したような戦地からの完全撤退は果たせなかった。
元国務省高官のリチャード・ハス氏はウェブサイトへの書き込みで、対中政策などで「トランプ氏はいくつか有益なことを成し遂げた」とする一方、「間違った政策の方がはるかに多かった」と指摘。その最たるものは「米国の民主主義を傷つけたことだ」とした。
恩恵は富裕層に
トランプ氏の政治的な強みはある部分、大衆迎合主義の熱心な擁護者として、地方の白人や労働者層の鬱積した恨みをくみ取る能力に由来している。これらの層は、米国の人種が多様化し、自分たちのコミュニティーが急速なグローバル化のあおりを受ける中で、長年にわたり怒りをため込んできた。
極右グループもトランプ氏を支持した。連邦議会議事堂乱入事件には、陰謀論を信じる「Qアノン」のメンバーが加わっていた。
ライス大学のダグラス・ブリンクレー氏は「トランプ氏は白人至上主義者、陰謀論者、偏屈者などで連合体を築いた」と述べた。
トランプ氏の移民政策も批判を浴びた。あるホワイトハウス当局者は匿名を条件に、2018年に政権が打ち出したメキシコ国境地帯で親子を引き離す移民政策について「失敗だった」と認めた。