トランプ、大統領就任から4年で「分断国家と不安定化した世界」を残して去る
トランプ米大統領は2017年1月20日の就任演説で「アメリカの大虐殺」、すなわち殺伐(さつばつ)として機能不全に陥った米国の現状を終わらせると約束し、それができるのは自分だけだと豪語した。写真は2020年9月、フロリダ州ジャクソンビルで演説するトランプ氏(2021年 ロイター/Tom Brenner)
トランプ米大統領は2017年1月20日の就任演説で「アメリカの大虐殺」、すなわち殺伐(さつばつ)として機能不全に陥った米国の現状を終わらせると約束し、それができるのは自分だけだと豪語した。
4年の任期を終えてトランプ氏が去った後に残るのは、新型コロナウイルスの感染で1日に数千人が亡くなり、経済が手ひどく痛んで政治暴力が吹き荒れる、さらに二極化が進んだ米国だ。
今や米国人の日常を定義付けるようになった苦々しい格差は、トランプ氏が一から生み出したわけではない。とはいえトランプ氏は、格差の多くを自分の権力基盤を作るための道具とした。地方の住民や労働者階層は政治的エリートから無視されてきたと訴え、トランプ氏はこうした人々を引っ張り上げると約束した。
6日には、大半が白人のトランプ氏支持者数千人が連邦議会議事堂に乗り込んだが、彼らが盾にしたのは「盗まれた選挙」というトランプ氏の誤った主張だった。この騒乱で警官1人を含む5人が死亡、数十人が負傷し、国全体が揺れた。
20日にホワイトハウスを去るトランプ氏のレガシー(遺産)の大部分は、同氏の大統領就任前よりも政治的・文化的に分断した米国民、ということになりそうだ。
反トランプ派は、こうした分断の核心に人種問題があると指摘する。2017年にバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突した事件で、トランプ氏は当初、白人至上主義者らの非難を避け、こうした団体の言い分に共感しているとの受け止めが広がった。トランプ氏の過激な言い回しはしばしば、黒人が警官に殺された事件を巡って高まった人種的な危機をさらにあおり立てた。
反貧困・反人種差別に取り組む「プア・ピープルズ・キャンペーン」の著名な人権活動家、ウィリアム・バーバー牧師は「悲しむべきことだが、トランプ氏の存在は(米国における人種間の)分割統治の歴史がもたらした当然の帰結だ」と指摘。「実際のところ、トランプ氏はそれを徹底的に進めたにすぎない」と述べた。
「忘れられた」人々に強い訴求力
トランプ氏は人種差別主義的な憎悪はまったくないと繰り返し述べている。
トランプ氏の強固な支持者は、過去の民主・共和両党政権が数十年にわたり苦しんできた貧困層や労働者層、地方を見捨ててきたとし、その政策を修正しているのがトランプ氏だと主張している。こうした支持層の規模は依然として大きく、これもまたトランプ時代のレガシーになりそうだ。
大統領選の結果に反対する親トランプ団体「ストップ・ザ・スティール」とつながりのある保守派活動家、アレックス・ブルゼヴィッツ氏は、トランプ氏は労働者層有権者に対する訴求力を維持していると話す。「彼らは自分たちが忘れられたと感じていた。そのときトランプ氏が『もう忘れ去られてはいないぞ』と語りかけたのだ」と言う。
トランプ氏は大統領選での敗北を受け入れず、支持者に連邦議会議事堂に向けて行進するよう促した。このことは、渦巻く虚偽を数百万人の共和党支持者が信じ込んでいることを意味し、次期政権がこうした人々の信頼を勝ち取るのは大きな難題となるだろう。
トランプ氏が軽視した新型コロナは感染が拡大し、コロナ禍による深刻な景気悪化で財政は厳しさを増している。トランプ氏支持派による連邦議会議事堂乱入で勢いづいた極右が再び暴動を起こすのを懸念し、首都ワシントンは厳重な警戒を敷いている。