最新記事

中国

中国大手IT企業の独禁法違反処分はTPP11参加へのアピール

2020年12月16日(水)08時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

たとえば通信販売関連のA社、B社、C社......があったとしよう。

いずれも最初の内はサービスが良くて廉価。「その代りにあなたの趣味を含めた個人情報を下さいね」という感じで、「物を買うのに、なんでそんな情報まで入力しないと買えないの?」というほど、こと細かに情報提供しないと買えなかった。それでも廉価なので、情報を提供する。それは互いのメリットを享受する交換条件のようなものだったため、A社もB社もC社......も、競って廉価に販売してくれた。

ところが、仮にこれらA、B、C......が合併吸収をして、極端な場合、1社だけになったとすると、もう競争相手はいなくなるので、いきなり販売価格も送料も高く付けてくる。その負担は消費者に行く。

その傾向が中国社会内でドンドン強くなってきたので、中国政府としてはストップを掛けざるを得ないところに来たのだ。

特に10月に開催された中国共産党第19回党大会・五中全会では、「共同富裕」というのが、一つの政治目標になっている。

それは鄧小平が言い出した「先富論」を半分は否定するものと言ってもいいだろう。「先富論」は本来「先に富める者から富め。先に富んだ者は、まだ貧しい者を引っ張って共に豊かになっていこう」という性格のものだったが、現実は「先に富める者が富み、貧乏な者は取り残してしまえ」という、激しい「貧富の格差」を生む結果を招いてしまった。

そこで習近平政権は「建党百周年記念までに貧困層をゼロにする」という「貧困撲滅運動」を旗印に、その実現に向かって躍起になっている。建党百周年記念は来年2021年7月1日にやってくる。もう、待ったなしなのである。

したがって五中全会のテーマの一つは「共同富裕」であり、そのための独禁法のネット業界への適用なのである。

「外商投資法も独禁法もVIEスキームをカバーする」ことへのシグナル

このたびの大手ネット企業への独禁法違反処罰は、実はアメリカ市場での上場などにも関係してくるVIE(Variable Interest Entities、変動持分事業体)スキームを使った企業への、ある種のシグナルと受け止めることもできる。

VIEというのは、投資先を連結する際の基準の一つで、このたびの処罰の解説文には明確に「VIEスキームが監督管理の対象となった」と書いてある。

たとえばアリババを例にとるなら、2014年5月にアリババグループはニューヨーク証券取引所での上場に成功している。中国政府は「中国のインターネット産業に対して外資が参入するのを禁じている」ので、本来なら他国の証券取引所に上場することはできないはずだ。だというのに、なぜニューヨーク市場に上場できたかというと、「VIEを利用して、法人登記所在地をケイマン諸島にした」からだ。それでいて実際に稼働しているビジネスの本拠地は浙江省の杭州に残した。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-トランプ大統領、金利据え置いたパウエルFRB

ワールド

キーウ空爆で8人死亡、88人負傷 子どもの負傷一晩

ビジネス

再送関税妥結評価も見極め継続、日銀総裁「政策後手に

ワールド

ミャンマー、非常事態宣言解除 体制変更も軍政トップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 3
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目にした「驚きの光景」にSNSでは爆笑と共感の嵐
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    M8.8の巨大地震、カムチャツカ沖で発生...1952年以来…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    「自衛しなさすぎ...」iPhone利用者は「詐欺に引っか…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    「様子がおかしい...」ホテルの窓から見える「不安す…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中