最新記事

日韓関係

RCEPが日韓の関係改善を後押し、日韓貿易の83%で関税撤廃へ

RCEP An Aid to Diplomacy

2020年11月30日(月)19時25分
カイル・フェリア(韓国経済研究所学術研究部長)

FRESHSTOCK/SHUTTERSTOCK

<東アジア地域包括的経済連携への加盟で特に大きな恩恵を受けるのは、歴史問題が経済交渉に影を落とす日韓両国だ>

東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が成功したことは、日本と韓国にとって大きな前進となった。日韓関係が歴史問題で膠着している最中に、両国が初めて同じ自由貿易協定(FTA)に参加することは、少なくともこれ以上の関係悪化を防ぐ手助けになるかもしれない。

この数十年、日本と韓国は歴史問題をめぐり見解の衝突を繰り返してきた。それでもいわゆる徴用工問題がこじれるまでは、政治的緊張が高まっても経済活動や消費者の行動に大きな影響はなかったと、メーン大学のクリスティン・ベカシとデラウェア大学のジウォン・ナムは指摘する。

しかし、近年の政治的緊張は、2003年末に始まった日韓FTAの交渉が膠着状態に陥っている理由の1つであり、2015年に日韓通貨スワップ協定が終了し、再開に向けた協議も打ち切られた直接の原因でもある。

RCEPが多国間の枠組みであることは、日韓双方にとって、同じ貿易協定に参加する上で重要な要素になったと思われる。この経済統合がさらに拡大する可能性は、日韓双方が政治的緊張に懲罰的な貿易措置で対応することをためらわせるきっかけになるだろう。

世界のGDPの約30%を占めるRCEP加盟15カ国の中でも、日本と韓国は特に恩恵を受けるとみられる。その大きな理由は、互いの経済へのアクセス拡大だ。

経済学者のピーター・ペトリとマイケル・プラマーの予測によると、RCEPの影響として、日本と韓国の実質所得は2030年までに1%増加する。これは他の全ての加盟国より大きな数字だ。さらに、日韓貿易の83%で関税が撤廃されることになる。

2017年1月にアメリカがTPP(環太平洋経済連携協定)から離脱した後、日本はより野心的な貿易や投資のルールを盛り込もうと取り組んだ。さらには包括的かつ先進的TPP協定(CPTPP、いわゆるTPP11)を実質的に先導してきた。韓国はCPTPPに加盟していないが、日本がアメリカ抜きでも協定を推進してきた理由と同じ視点から、加盟に関心を示している。より安定した日韓関係は、日中韓FTAの今後の可能性と同様に、CPTPPへの加盟についても韓国を後押しするはずだ。

中国との交渉で協調も

中国はRCEPの締結が、近年停滞している日中韓FTAの交渉を結実させる機運になると期待している。ただし、日本と韓国は、それぞれ中国との交渉で同じ懸念を抱いている可能性が高い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 9
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中