最新記事

バイデンのアメリカ

若者を魅了した若き日のバイデンに見る「次期大統領」の面影

BIDEN AT THE BEGINNING

2020年11月25日(水)19時20分
ジム・ヌーエル(スレート誌政治記者)

magSR201125_Biden2.jpg

1972年11月20日、妻ネイリアや子供たちと30歳の誕生日を祝う BETTMANN-CONTRIBUTOR-GETTY IMAGES-SLATE

1972年に選挙戦を開始したとき、バイデンは10万~15万ドルという最低限の予算で戦うと宣言した。テレビCMを打ったり、人を雇ってチラシを配る余裕はない。そこでバイデン陣営は別の方法で選挙広報紙を配布することにした。州内全域でボランティアの若者たちに手渡しで配ってもらおうというのだ。

「州全域に郵送しようとすると1回送るだけで3万6000ドルかかるが、われわれにはそんな金銭的余裕はなかった」と、バイデンは回顧録に書いている。そのため、とバイデンは続けた。自分の妹であり選対本部長だった「バル(バレリー・バイデン)が、『バイデン郵便局』を立ち上げた。週に1度、土曜か日曜にバルのボランティア部隊がわれわれの選挙広報紙を州の約85%の家庭に『配達』して、直接手渡すのだ。10月半ばにもなると、土曜の朝に玄関先で配達を待ってくれている子供たちまで現れた」

左派から距離を置いた訳

選挙期間中、バイデンは頻繁に地元の高校を訪れて話をしていたが、それは単に新たに有権者となった18歳の票目当てというわけではなかった。全ての学年の生徒たちに向けて話をし、彼らの両親の気持ちを自分に向けさせるためだった。

バレリーは後に、この戦略が勝利の決め手となったと述べている。2010年に発売されたバイデンの伝記の中で、バレリーは著者の取材に応える形でこんなエピソードを紹介した。「選挙の勝利は、親御さんたちのおかげだと思っている。彼らは私にこう言った。『土曜の朝10時には学校でアメフトの試合が始まるのに、朝6時に起きて選挙広報を配ろうとうちの子に思わせることができるなんて......そんな人のことは改めて知ってみたいという気にもなるでしょう。その人には何かいいところがあるに違いないからって』」

また、学生運動家ではなく投票先を決めかねている若い層に狙いを定めることで、バイデンはリベラル派の主張に全面的に染まることなく若いエネルギーを取り入れることに成功した。実際に彼は、左派から一定の距離を取ろうと努力していた。彼にとって大きなリスクの1つは、当時大統領選に出馬していたリベラル派の民主党候補ジョージ・マクガバンと同一視されることだったからだ。

1972年の大統領選では、「中道派の有権者にとって、ニクソン以外の選択肢というのはほとんどなかった」と、フランプは筆者に語った。バイデンは同じ民主党の大統領候補であるマクガバンに対する逆風にさらされながら、自らも共和党候補とは違う選択肢になる必要があったのだ。

そのためか、バイデンは多くの争点について中道派を怒らせることなく、他方でリベラル派を満足させる立場を取った。例えば彼はマリフアナ合法化に反対だったが、選挙広告にはこうある。「マリフアナの所持は軽犯罪だ。警察はそのように対応すべきで、麻薬取り締まりの任務の大半はヘロイン対策に注ぐべきだ」

バイデンはベトナム戦争に反対であり、ボッグズはニクソンに戦争を終わらせるようもっと強く迫るべきだとたびたび批判していたが、一方で不正な兵役逃れに対する恩赦を支持せず、戦争に反対する際も実利的な立場からそう述べた。

バイデンのロースクール時代の友人であるロジャー・ハリソンが私に語ったところによれば、バイデンは「『ノー』を突き付ける際に彼独特の巧妙な言い方をするため、相手方は、意見の相違を尊重しようという気にさせられる」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾、中国の軍事活動に懸念表明 ロイター報道受け

ビジネス

市場動向を注視、為替市場で一方向また急激な動きもみ

ワールド

訪印のプーチン氏、モディ首相との会談開始

ビジネス

金融政策で金利差縮めていってもらいたい=円安巡り小
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 8
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 9
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中