最新記事

バイデンのアメリカ

若者を魅了した若き日のバイデンに見る「次期大統領」の面影

BIDEN AT THE BEGINNING

2020年11月25日(水)19時20分
ジム・ヌーエル(スレート誌政治記者)

magSR201125_Biden3.jpg

1973年に事故で負傷した息子ボウの病室で議員就任を宣誓 BETTMANN-CONTRIBUTOR-GETTY IMAGES-SLATE

一方で、当時のバイデンが勝利したのは争点に関する主張がうまかったからというより、むしろ幸運だったからだとも言える。選挙を直前に控えた1972年10月には、ロックマンは「彼が熱狂的な若い支持者の前に立つとき、女の子たちが目を輝かせているのは政治的なこととはほとんど関係がない」と、バイデンの熱狂的な支持者を一蹴した。

「女の子たちは、彼はセクシーだとこちらが聞いてもいないのに語る」。一方で、若い男性たちは「保守派の失態について語るバイデンを『新しいヒーロー』を得たかのような表情であがめている」。

男女の描き方ににじみ出る大いなる偏見はさておき、特定の争点に関して中道を貫いたバイデンが、それにもかかわらず1970年代前半の新しい左派を熱狂させ、若い層を中心にした有権者の心をつかみ、それまでのデラウェアにはなかった「ボッグズ以外の選択肢」になったことは事実だろう。

妻と娘を交通事故で失う

だがバイデンにとって、29歳という若さで上院議員に当選するという一大事をやってのけたことは、1972年の締めくくりとはならなかった。まさかの勝利という物語は、この直後に起きる悲劇によってかき消されていくことになる──選挙に勝利した翌月、ワシントンでの新しい生活に向けて準備していたその最中に、妻のネイリアと1歳の娘のナオミが自動車事故で死亡したのだ。

妻と娘の告別式でバイデンは、妻と自分が事故前夜、物事が「うまくいき過ぎている」と語り合い、一寸先に何か最悪なことが待ち受けているのではと心配していたと明かした。「私たちには、何かが起きる予感があった」とバイデンは言った。「何かが起きるという怖さがあったから、4人目の子供は儲けないことにしようと2人で決めたんだ......私たちには、3人の素晴らしい子供たちがいた。今は2人になってしまったが」

以後バイデンは常に悲劇的なオーラをまとっていたが、2015年にそれが一気に噴き出した。元デラウェア州司法長官の息子ボウが、46歳の若さで脳腫瘍で亡くなったのだ。

バイデンにはどことなくだが、常に物憂さや満たされない雰囲気が付きまとっていた。失言癖に何年も悩まされ、多くの民主党員と支持者が抱くバイデンの将来像に反してずっと大統領の座をつかめないでいた。

今回の大統領選に3度目となる出馬を決めた際、バイデンはもう若くはなく、若者にとっての最有力候補でもなかった。2018年には、若者をわざと怒らせるような発言をしたことさえある。「若い世代は私に、人生はなんて大変なのだろうと言う。いやいや、ちょっと待ってくれ。それにはまったく共感できないね」

だがバイデンは今回、出口調査によれば29歳以下の票のうち60%を獲得し次期大統領に選ばれた。45歳以上の票では現職のドナルド・トランプ大統領が優勢だったことを考えると、バイデンを勝たせたのは若年層だったとも言える。世代交代を売り込むのではなく「正常」への回帰を訴えていた古参のバイデンに、初当選から48年目にしてようやく「その時」が巡って来たということだろう。

©2020 The Slate Group

<2020年11月24日号「バイデンのアメリカ」特集より>

ニューズウィーク日本版 脳寿命を延ばす20の習慣
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月28日号(10月21日発売)は「脳寿命を延ばす20の習慣」特集。高齢者医療専門家・和田秀樹医師が説く、脳の健康を保ち認知症を予防する日々の行動と心がけ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ガザ停戦維持に外交強化 副大統領21日にイスラ

ワールド

米ロ外相が「建設的な」協議、首脳会談の準備巡り=ロ

ビジネス

メルク、米国内事業に700億ドル超投資 製造・研究

ワールド

コロンビア、駐米大使呼び協議へ トランプ氏の関税引
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 9
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 10
    トランプがまた手のひら返し...ゼレンスキーに領土割…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中