最新記事

2020米大統領選

トランプを勝たせるのはアメリカで進行中の「文化戦争」

HOW THE ELECTION WILL BE WON

2020年10月9日(金)17時30分
ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党〔UKIP〕元党首)

トランプはBLMを逆手に取り法と秩序の重要性を訴える LEAH MILLIS-REUTERS

<11月3日に迫る大統領選では社会的正義や人種問題をめぐる価値観、イデオロギーに基づく対立が最大の争点に。選挙の決着は同時にBLM運動への国民の評決でもある>

1992年の米大統領選を前に、ビル・クリントン陣営の選挙参謀ジェームズ・カービルは「当然、経済だ!」というスローガンを生み出した。アメリカが景気後退から回復するなか、経済がクリントン勝利のカギの1つだと見抜いていたのだ。

では2020年の大統領選のカギとなる争点は何だろう。新型コロナに対する世界のお粗末な対応のせいで大混乱に陥った経済を立て直す最良の計画を持っているかどうかなのか。それともコロナ危機とその余波への対応を安心して任せられるかなのか。

答えはどちらもノーだ。実際には、9月に(リベラル派の)ルース・ベイダー・ギンズバーグ連邦最高裁判所判事が死去したことで、その後任人事をめぐる上院での攻防の結果、今回の大統領選はアメリカで進行中の文化戦争(文化的争点をめぐる価値観やイデオロギーの違いに基づく対立)に左右されることになるに違いない。全米の都市で暴動が続き、暴力と無秩序が増加しているなか、今こそBLM(ブラック・ライブズ・マター= 黒人の命は大事)運動に評決を下す時だ。これについてはドナルド・トランプ大統領はとにかくラッキーだと思う。

民主党候補のジョー・バイデン前副大統領の一番の強みは「トランプではない候補」であること。世論調査の結果もこれを裏付けがちだ。

こうした議論からバイデンは一定のメリットを引き出せるかもしれないが、現在アメリカ中に吹き荒れている街頭デモと反警察感情に関する主張ははるかに心もとない。バイデンの問題は、彼がアンティファ(反ファシスト勢力)や「警察予算削減」を求めるBLM運動を、法に従う市民にも訴えられるような明確な言葉で非難できないことである。その理由は単純で、彼以外の民主党はこうした集団と緊密に連携しているからだ。民主党の政治的な公正さへのこだわりは、バイデンに多大なダメージを与える結果になるだろう。

一方トランプは、ギンズバーグの後任にアメリカのキリスト教的価値観と法の支配を象徴する最高裁判事を指名すれば、郊外の中産階級と高齢者にアピールできるのは確実──どちらも11月の選挙結果を左右し得る有権者層だ。トランプが(保守派の)連邦高裁判事エイミー・コニー・バレットを指名したのは当然だろう。

最高裁判事(9人)の構成がこれまでの5対4から6対3とさらに保守派優位になれば、トランプの支持基盤にとってはめでたいことにアメリカの文化生活はこの先何年も安泰になる。社会的正義や人種差別に敏感なリベラル派の価値観の急速な広がりと格闘するトランプは一層勢いづくだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪首相、12日から訪中 中国はFTA見直しに言及

ビジネス

ドイツ輸出、5月は予想以上の減少 米国向けが2カ月

ビジネス

旧村上ファンド系、フジ・メディアHD株を買い増し 

ワールド

赤沢再生相、米商務長官と電話協議 「自動車合意なけ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 5
    「ヒラリーに似すぎ」なトランプ像...ディズニー・ワ…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    米テキサス州洪水「大規模災害宣言」...被害の陰に「…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 10
    中国は台湾侵攻でロシアと連携する。習の一声でプー…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 3
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸せ映像に「それどころじゃない光景」が映り込んでしまう
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 6
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 10
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中