最新記事

事件

韓国ネットに新たな闇 犯罪者を晒す「デジタル刑務所」、えん罪で死者も

2020年9月29日(火)20時00分
ウォリックあずみ(映画配給コーディネイター)

インターポール経由で運営者を逮捕

このようにデジタル刑務所によるえん罪被害が増えだしたことを受けて、大邱警察庁サイバー捜査隊は、警察庁からの指示で強制捜査に取り掛かった。大邱警察庁は、サイト運営者が海外に滞在していることを突き止め、8月31日警察庁外事捜査課を通じてインターポールに捜査協力を要請した。

そして、9月22日ベトナムのホーチミンで30代の韓国人男性A容疑者を検挙した。A容疑者は、事件被疑者の個人情報と裁判所宣告結果などを、運営中のサイトへ無断で掲示した疑いで検挙された。韓国送還後は、引き続き共犯調査が行われる予定である。

A容疑者の逮捕に引き続き、24日韓国放送通信審議委員会は、会議にて「表現の自由は最大限保護しなければならないが、現行の司法体系の不正・悪用を許容してはいけない」とし、デジタル刑務所サイトに対する接続遮断を決定を発表した。

さらに、「サイトに対する常時モニタリングを続け、海外サーバーサービス提供業者に協力を要請するなど、不法情報の再流通を防ぐために努力する計画だ」と声明を出した。

次々とアドレスを変更しながら生き延びる

ところが、その翌25日には、なんと「デジタル刑務所」のツイッターアカウントが開設され、新たなサイトのアドレスがツイートされている。そこからリンク先に飛ぶと、新たなアドレスに引っ越ししたサイトが表示され、今でも個人情報が誰でも見ることができる。

また「接続遮断された場合の利用方法」などの説明も詳しく掲載されており、今後また遮断要請があったとしても、新しくサイトを作り、ツイッターで新アドレスを告知して情報提供していくと記されている。

デジタル刑務所側は、サイト遮断に屈せず、韓国放送通信審議委員会と真っ向から対立する構えのようだ。

デジタル刑務所がオープンした当初は、運営者が「n番部屋事件」の管理人だったソン・ジョンウ容疑者の身辺情報をインスタグラムに掲載したものだったという。その後、インスタグラムのフォロワー数を伸ばし、6月に「デジタル刑務所」サイトを開設、他の性犯罪者などの公開を始めたそうだ。

性犯罪者への罪が軽いのではないかという意見は、韓国だけでなく日本でもこれまで何度も議論されてきた。このデジタル刑務所の運営者も開始当初は、自分のことを正義の味方と信じて活動を始めたのかもしれない。

自分や家族が性犯罪の被害者だったらと考えると、情報を公開し、社会的に罰せられて欲しいと願う気持ちも分らなくもないが、しかし、現代のネット社会ではデジタルタトゥーという言葉があるように、一度拡散してしまった情報は取り返しのつかないことになってしまう。正しく判断できる能力がない者が、罪を裁くまねごとをするなら、また次のえん罪を引き起こしてしまうのではないだろうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ロ石油大手の海外資産売却交渉を承認 買い手候補

ビジネス

GDP7─9月期は6四半期ぶりのマイナス成長、年率

ビジネス

NY連銀総裁、常設レポ制度活用巡り銀行幹部らと会合

ワールド

トランプ氏、カンボジアとタイは「大丈夫」 国境紛争
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中