最新記事

性犯罪

ナイジェリアで性暴力厳罰化──性犯罪者の去勢には疑問の声も

2020年9月23日(水)18時30分
松丸さとみ

ナイジェリアのカドゥナ州知事(写真左)が性犯罪厳罰化法に署名 twitter @GovKaduna

<ナイジェリアでは、ロックダウン以降、レイプ件数が3倍に跳ね上がった。このためカドゥナ州で性犯罪が厳罰化された......>

カドゥナ州で性犯罪者は去勢のうえ死刑または終身刑に

アフリカ最大の国ナイジェリアのカドゥナ州でこのほど、レイプが厳罰化され、有罪となった場合は、去勢(睾丸または卵管を摘除)された上に死刑または終身刑となることになった。同州知事が9月11日に署名し、即日施行された。

ナイジェリアでは新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、3月下旬から大都市で外出禁止措置(ロックダウン)が取られた(現在も夜間は外出禁止となっている)。具体的な数字は発表されていないものの、政府筋はロックダウン以降、レイプ件数が3倍に跳ね上がったとしている。AP通信によるとポーリン・タレン女性問題担当相は、ロックダウンにより、女性と子どもが暴力をふるう人物と共に家庭内に閉じ込められていることが原因だと説明している。

こうした状況を受けて、ナイジェリア国内に36ある州のすべての知事は6月、女性と子どもに対する「ジェンダーに基づく暴力」とレイプについて非常事態を宣言。性犯罪により厳しく対応する意向を明らかにした。

今回のカドゥナ州の決定は、このときの宣言を受けたものとなる。被害者が14歳未満のレイプで有罪になった場合、去勢手術の上で死刑が執行される。被害者が14歳以上の場合は、去勢手術の上で終身刑だ。

ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、2005年の研究を引用する形で、性犯罪を常習的に犯す人物が去勢された場合、再犯のリスクが下がることが示されていると報じた。とはいえ、カドゥナ州のケースでは有罪が確定すると死刑となるため、なぜその前に去勢するかは不明だと同紙は指摘している。

刑罰としての去勢には反対意見も

スカイニュースによると、今回決定したカドゥナ州のレイプに対する刑罰は、ナイジェリア国内ではもっとも厳しいものとなる。これまで同州では、成人をレイプした場合は最長で禁錮21年、未成年が被害者の場合は終身刑だった。

しかしカドゥナ州の決定に疑問の声も上がっている。この決定を知らせるカドゥナ州知事のツイートに対し、「こうした措置は、拷問や精神的無能力(刑事責任が問えない状態)による誤った自白が原因の冤罪だった場合、取り返しが付かない。(略)野蛮な懲罰は正義ではない」との意見も寄せられている。

また弁護士であり人権活動家でもあるチディ・オディンカル氏はNYTに対し、この法律の施行により、性犯罪を減らすのはさらに難しくなるだろうと述べた。

というのも、前述の通りナイジェリアではレイプの多くは家庭内で起きている。そのため、今回のような去勢が伴う刑罰になると、家族の罪を通報しにくくなるのではないかとオディンカル氏は説明している。同氏は、終身刑で十分だとの考えを示し、去勢は「サディズム的な法律だ」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米オープンAI、IPO観測を否定  CFO「当面選

ワールド

イスラエル、ハマスから新たな遺体返還受ける ガザで

ワールド

米共和党、大統領のフィリバスター廃止要求に異例の拒

ワールド

トランプ氏「南アG20に属すべきでない」、今月の首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 5
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 8
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中