最新記事

コロナと脱グローバル化 11の予測

世界経済は「後退」の局面に入った──脱グローバル化と多国籍企業

THE RETREAT FROM GLOBALIZATION

2020年9月7日(月)11時10分
ウィリアム・ジェーンウェイ(ベンチャーキャピタリスト)

経済や金融の極端なグローバル化が始まった20世紀末以降に、経済主体としての国家の権威が失墜したのは偶然ではない。「政府は問題の解決者たり得ない。政府そのものが問題なのだ」というロナルド・レーガン元米大統領の言葉は、この時代を見事に言い表している。

レーガンや同時期にイギリスの首相を務めたマーガレット・サッチャーが国家の果たす役割を減らした結果、生まれた「隙間」を埋めたのが多国籍企業だった。以来、多国籍企業は外交・内政を問わず公共政策を通じて自身の利益を追求する力を高めていった。

こうした流れについてロドリックはこう書いている。「通商合意(の内容)は輸入関税や輸入割当量といった問題にとどまらず、知的財産や健康・安全に関する基準、労働基準、投資に関するルールといった制度や、そうした制度の国ごとの違いの整合化にまで踏み込むようになった。そして、一般に広く認められた経済理論になじみにくくなった」

その結果、「通商合意は保護主義を抑え込む効果をもたらすよりも、(政治家や官庁への働き掛けを通して)利益誘導を行おうとする企業や、政界との強いコネを持つ企業に力を与えているかもしれない」。

利益誘導型と言っても、これまでとは違う。該当するのは国際展開する銀行や製薬会社、多国籍企業だ。

現在のように国と国とが強気でぶつかり合う状況においては、自由貿易の名の下に利益誘導を追求しようとする動きを警戒し、それへの抵抗の高まりを期待するほうが理にかなっている。

未来を占う11月の米大統領選

脱グローバル化の最新局面では、各国の税制の違いを利用した多国籍企業による課税逃れが起きている。アマゾンやアップル、フェイスブックやグーグル、マイクロソフトといった巨大テクノロジー企業が最たる例だ。実際に利益が発生した国から税率の低い国へと故意に利益を動かすことが可能だという事実は、デジタル革命がもたらした厄介な副産物の1つと言える。

近年、IMFやOECDは多国籍企業に対する課税の国際的な枠組みをつくろうと各国政府に協力を呼び掛けている。フランス政府は各国に先駆けて巨大テクノロジー企業への税制を提案している。こうした動きは従来とは異なる形のグローバル化につながるだろう。例えば、異なる国や地域で計上された売上高(利益ではない)に基づいて最小限、徴収が可能な税額を定める政府間合意が生まれる可能性がある。

【関連記事】コロナでグローバル化は衰退しないが、より困難な時代に突入する(細谷雄一)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本との関税協議「率直かつ建設的」、米財務省が声明

ワールド

アングル:留学生に広がる不安、ビザ取り消しに直面す

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 6
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 7
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 10
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中