最新記事

タイ

「禁断」のタイ王室批判で1976年の惨劇再び?

2020年8月25日(火)18時40分
ジェイク・ブラック

映画『ハンガー・ゲーム』シリーズの「3本指ポーズ」で抵抗の意思を表現 ATHIT PERAWONGMETHA-REUTERS

<かつて政治的動乱の最前線となったタイの大学で、学生活動家が王室批判を展開>

今年に入りタイ全土で反政府デモが続くなか、一部の学生活動家たちの行動に注目が集まっている。最近、タマサート大学ランシット・キャンパスで行われた抗議活動で、王室を直接的に批判したためだ。タイでは、王室批判はタブー中のタブーとされてきた。

タマサート大学がタイの政治的動乱の最前線になるのはこれが初めてではない。1976年に同大学で起きた出来事の暗い記憶は、不吉な黒い雲のように活動家たちの頭上に垂れ込めている。

今年の反政府デモは、2月に憲法裁判所が野党・新未来党の解党を命じたことを発端に始まった。その後、新型コロナウイルスの感染予防策として大規模集会が禁止されたことで、抗議活動はすぐに沈静化したかに思えた。

しかし、6月初めに有力な民主活動家のワンチャルーム・ササクシットが失踪したことで、抗議活動は再び勢いを増し始めた。カンボジアのプノンペンで亡命生活を送っていたワンチャルームは6月4日、自宅近くで武装した男たちに拉致された。それ以来、消息は分かっていない。

7月18日には、首都バンコクの民主記念塔周辺に抗議の市民数千人が集結。2014年の軍事クーデター以降、権力を握り続けているプラユット首相の政権に抗議し、軍政下で制定された憲法の改正、活動家への処罰の中止、議会の解散を要求した。

その後、抗議活動は勢いを増していった。それでも、批判の矛先はあくまでもプラユット政権と、強大な政治的影響力を握り続けている軍に向けられていた。

状況が変わったのは8月10日夜。バンコクの北42キロにあるタマサート大学ランシット・キャンパスで行われた抗議集会で1人の学生が演説し、王室を公然と批判したのだ。学生が掲げた要求の中には、王室による公金使用の抑制などに加えて、不敬罪の廃止も含まれていた。

不敬罪は、国王や王族を中傷したり、侮辱したり、敵意の対象にしたりした人物に、最高で15年の禁錮刑を科す法律だ。この法律は、1976年にタマサート大学で起きた出来事を機に厳格化されたものだ。

1976年10月4日、バンコクの中心部に位置するタマサート大学タープラチャン・キャンパスで学生が演劇を上演した。その中に、若者たちが首をつるされる場面があった。これは、この少し前に2人の民主活動家がリンチを受けて絞殺されたことに抗議するものだった。

【関連記事】闇に消される東南アジアの民主活動家たち
【関連記事】国王の一声で停止されたタイの「不敬罪」は、いつ復活してもおかしくない

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EU議員団が訪中、中国製品の安全性と市場開放で圧力

ビジネス

午後3時のドルは158円後半でほぼ横ばい、イラン情

ワールド

インド中銀、8日は金利据え置きか 中東情勢見極め

ワールド

パレスチナ人死刑法撤回求める、国連人権高等弁務官が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 5
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 6
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 7
    北京に代わる新都市構想は絵に描いた餅のまま...大幅…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中