最新記事

感染症対策

コロナ下の米大統領選、予算不足に悩む選挙管理当局 投開票混乱で結果に疑問符つく恐れ

2020年7月18日(土)12時57分

秋に大統領選を控える今年、全米各州で行われた予備選挙によって、ここ100年で最悪の公衆衛生危機下で実施する選挙がいかに困難か、明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大で実施が遅れた予備選の投票に並ぶ有権者。6月9日、ジョージア州ユニオンシティで撮影(2020年 ロイター/Dustin Chambers)

ミシガン州のある街は、新たな機械を導入して不在者投票の開票速度を速めたいと考えている。

オハイオ州の選挙管理当局は、投票所に新型コロナウイルス対策を施し、有権者や担当職員を安心させたいと考えている。6月の予備選挙で長蛇の列ができて混乱したジョージア州は、もっと簡単に不在者投票を済ませることができる用紙を有権者に送りたいと考えている。

いずれのケースも、実現するための資金がないと選挙運営の当局者は言う。しかし、どれも11月3日の大統領選の結果を左右する可能性がある。

秋に大統領選を控える今年、全米各州で行われた予備選挙によって、ここ100年で最悪の公衆衛生危機下で実施する選挙がいかに困難か、明らかになった。投票所が閉鎖されたり、スタッフが不足したせいで、有権者は長い列を作った。不在者投票用紙を配布するのにもトラブルが起き、開票作業には何日も、場合によっては何週間もかかった。

共和党のトランプ大統領、民主党のバイデン前副大統領が戦う本選挙を前に、こうした問題は解消されるべきだが、今年の大統領選は新たな予算の割り当てどころか、既存の予算の削減に直面している。新型コロナで経済が打撃を受け、税収が急減しているためだ。

ロイターは複数の激戦州で、選挙運営の担当者20人以上に取材した。彼らが口々に懸念したのは、実務上の問題のみならず、選挙プロセスに対する有権者の信頼が損なわれるリスクだ。

「選挙プロセスの完全性を保ち、選挙に携わる職員、そして投票する有権者の安全を確保することの意義は金銭には代えられない」と、ミシガン州ロチェスターヒルズ市の職員で、選挙管理部門の責任者ティナ・バートン氏は言う。2016年、ミシガン州ではトランプ氏が1万1000票に満たない差でヒラリー・クリントン氏を破った。

パンデミック期間中の投票は、より多くのコストが掛かることが今年の予備選で明らかになった。マスクやフェイスシールド、その他投票所のウイルス対策に必要な備品を購入しなければならない。投票用紙を郵送したり、開票作業に必要な費用も膨らんでいる。

いずれの作業も適切に行う上で予算が十分ではないと、多くの職員は言う。選挙に詳しい専門家は、11月に投票する有権者数は過去最高になる可能性が高いと指摘する。連邦議会選、州知事選、州議会選、どれも勝敗の行方が読めない。

無党派の公共政策研究機関ニューヨーク大学ブレナン司法センターのミルナ・ペレス所長は、予算不足が「広範囲で選挙権が損なわれる事態」に繋がる恐れがあると指摘する。「人々が本気で選挙の正統性を疑うリスクが生じている」


【関連記事】
・感染防止「総力挙げないとNYの二の舞」=東大・児玉氏
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・東京都、新型コロナ新規感染286人で過去最多を更新 「GoToトラベル」は東京除外で実施へ
・インドネシア、地元TV局スタッフが殴打・刺殺され遺体放置 謎だらけの事件にメディア騒然

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 演習2日

ワールド

オランダ企業年金が確定拠出型へ移行、長期債市場に重

ワールド

シリア前政権犠牲者の集団墓地、ロイター報道後に暫定

ワールド

トランプ氏、ベネズエラ麻薬積載拠点を攻撃と表明 初
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中