最新記事

COVID-19のすべて

コロナが収束しても、世界で終息しなければ、また自国に戻ってくる

2020年6月29日(月)11時25分
國井 修(グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕戦略投資効果局長)

ATHIT PERAWONGMETHA-REUTERS

<世界は今も、1ミリメートルの1万分の1の敵を相手に必死に闘い、その勝利は見えていない。ただし、希望もある――。本誌特別編集ムック「COVID-19のすべて」より>

我々世界で感染症と闘ってきたものにとって、微少な病原体が動物から人間にスピルオーバーし、世界を席巻する新たなパンデミックが起こることはある意味で必然だった。ペスト、インフルエンザ、エボラ熱、エイズ(後天性免疫不全症候群)、SARS(重症急性呼吸器症候群)......歴史を見れば明らかである。
202006NWcovid19Mook_cover200.jpg
ただ、パンデミックがいつやって来るのか、その敵がどんな戦い方をするのか、どれほどの威力を持つのか、誰にも分からなかった。

それが現実にやって来た。我々が生きている間に。

「敵の戦略は予想外」だった。エボラ熱やSARSのように、劇的な症状を与える際立った戦い方ではない。無症状または「ただの風邪?」と油断している間に、忍び込み、増殖・拡散していく。我々の隙を衝く。

日本にはクルーズ船を通じて奇襲攻撃をし、韓国やイランでは宗教活動に紛れ、イタリアやスペインではアペロ(食前酒を飲む集まり)やハグを通じ、そして医療機関に潜り込んだ。気付いたときには、感染爆発や医療崩壊。次々に犠牲者が増えていった。

アメリカは大丈夫だろう。ドナルド・トランプ大統領のみならず、私の知人の専門家たちも初めはそう思っていた。世界最高の医療レベルと、世界最強の人材・予算を持つ米疾病対策センター(CDC)を持つ国だ。それがふたを開けてみると、感染者数・死亡者数とも世界トップ。中国の20倍近く、ベトナム戦争の米国兵士の戦死者数をも超えてしまった。

世界は今も、1ミリメートルの1万分の1の敵を相手に必死に闘い、その勝利は見えていない。この闘いを、先進国首脳は口をそろえて、第2次世界大戦以来の危機と発言し、第3次世界大戦と表現するものもいる。戦いは世界のほぼ全域に及んでいる。

新型コロナウイルスの破壊力はSARSやエボラ熱の比ではない。人類の健康・命を奪うだけでなく、2020年の東京五輪開催を吹っ飛ばし、教育を停止させ、人々から雇用を奪った。国際社会の全ての分野に打撃を与え、政治的対立も悪化させている。世界恐慌以来の景気後退が予想され、コロナによる直接死よりも、生活苦、社会不安などによる間接死のほうが増えるのではとの懸念もある。

ただし、希望もある。ワクチン・治療薬・診断法の研究開発が進んできた。敵の戦法・戦術もかなり見えてきた。戦い方の成功例も増えている。感染爆発を起こした国々もピークアウトしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債務急増への懸念、金とビットコインの価格押し上げ

ワールド

米、いかなる対イラン作戦にも関与せず 緊張緩和に尽

ワールド

イスラエル巡る調査結果近く公表へ、人権侵害報道受け

ビジネス

利上げの可能性排除せず、経済指標次第=米シカゴ連銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中