最新記事

インドネシア

被告警官の釈放を被害者が要求 インドネシア、政治の闇が垣間見える裁判の行方は

2020年6月24日(水)20時32分
大塚智彦(PanAsiaNews)

逮捕直後から強い「身代わり」説

現職2警察官の逮捕に国民は「やはり警察が犯行に関与していたのか」と驚く一方で、予想通りの展開に警察組織の深い闇を嗅ぎ取ったマスコミ、人権団体も多かった。

その闇とは「2警察官はスケープゴート、身代わり逮捕であり、裁判は軽い刑で、1審確定、早期釈放が用意されている」というシナリオだ。

その予想も覆されることなく裁判は「順調」に進み、「犯人の体格、人相は2被告に似ていない」とする犯行の目撃者に証言の機会は与えられずじまい。またノフェル氏の顔面ではなく体を狙って劇薬を注いだとの被告の供述から、問われている「拷問罪」の最高刑が禁固7年であるにも関わらず求刑はそれぞれ1年だった。

公判では2被告に対して「警察の勤務評定もよく、捜査にも協力的だ」などと検察側が主張するなど、まるで弁護側のような主張を展開した。

肝心の犯行動機に関しても2被告が「ノフェル捜査官の捜査が警察組織への攻撃であると考え警察を守るための行為だった」と訳の分からない主張や「個人的恨みがあった」とするのを深く追及することもなく安易に認定するなど異例の展開で進んできた。

こうした主張は警察機動旅団の幹部でもない2被告がKPK捜査官を襲撃する動機としては不可解極まりないことに対しても検察、弁護側そして裁判官も異論を唱えなかったところに「この裁判の茶番さが象徴されている」とインドネシア法律扶助協会(YLBHI)関係者などは指摘している。

大統領は今のところ静観するのみ

こうした裁判の進展、軽い求刑にジョコ・ウィドド大統領はこれまでのところ具体的なコメントや姿勢を明らかにせず、側近を通して「インドネシアの司法を信頼している」とのみ語り、司法への政治介入と批判されることを避けて、静観する姿勢に終始している。

現在のジョコ・ウィドド内閣にはノフェル捜査官の襲撃事件の捜査を直接指揮したティト・カルナファン国家警察長官(当時)が内務相として入閣していることも裁判が進展中の段階での静観という姿勢の背景にあるとの指摘もある。

このため判決公判で求刑通りの禁固1年が下され、検察、弁護側も控訴せずに刑が確定したときに果たしてジョコ・ウィドド大統領がなんらかのコメントを出すのかどうかが注目されている。


【話題の記事】
・スウェーデンが「集団免疫戦略」を後悔? 感染率、死亡率で世界最悪レベル
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・東京都、新型コロナウイルス新規感染31人を確認 6日連続で20人超え
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡

ビジネス

EU、自動車業界の圧力でエンジン車禁止を緩和へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中