最新記事

韓国経済

「コロナ優等生」韓国の病巣は経済──構造改革を進めない文在寅政権

SOUTH KOREA’S POST-PANDEMIC ECONOMY

2020年6月9日(火)19時40分
李鍾和(高麗大学経済学部教授)

文在寅大統領の左寄り経済対策は的外れ KIM MIN-HEE-POOL-REUTERS

<国際的に評価された韓国のコロナ対策だが、社会活動の大幅な抑制は、例に漏れず内需と雇用の弱体化を招いた――韓国政府はこの危機を体質転換の好機とできるか>

韓国はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)との戦いに勝利を収めているようだ。ここ数週間の1日当たりの新規感染者数は2桁にとどまり、今後も抑制できる公算が高い。今の韓国にとってより大きな問題は、経済の落ち込みだ。

2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)と2015年のMERS(中東呼吸器症候群)の流行を乗り越えた韓国の指導者は、新型コロナウイルスの封じ込めには、迅速かつ積極的な行動が必要であることを知っていた。

そのため、ウイルスの遺伝的配列が判明した3週間後には検査キットを素早く承認。大規模な検査と集中的な接触者追跡プログラムを展開し、携帯電話のGPS記録、クレジットカードの決済情報、監視カメラ映像を駆使して、感染の可能性のある人々を特定し、リスクのある人に通知した。

社会規範に従い、強力な政府介入を肯定的に受け入れる韓国人は、厳しい封じ込めに進んで協力した。公共の場でマスクを着用し、社会的距離を実践し、プライバシーを犠牲にして接触追跡に応じた。感染者と確実に接触した人々は、自主隔離を行った。

内需と雇用は弱体化

一方で韓国の感染症対策は、社会活動を大幅に抑制したことで内需と雇用を弱体化させるというマイナス面も持ち合わせていた。今年4月の雇用は、前年同月比で約47万6000人減と、1999年2月以降で最大の減少幅を記録した。

もちろん、これは韓国だけの問題ではない。世界経済全体が打撃を受け、外需は急速に縮小している。だが輸出頼みの韓国経済にとってはまずい状況だ。世界貿易の縮小により韓国の4月の輸出高は前年比24.3%減少し、世界金融危機後以来の急激な減少となった。IMFも、2020年に韓国のGDPは1.2%縮小すると予測。景気後退は避けられない。

韓国政府も手だては打っている。個人や企業を支援し、消費を押し上げるために総額245兆ウォン(約22兆円)の大規模な財政刺激策を導入。韓国銀行は政策金利を最低水準の0.5%に引き下げた。

だがどんなに大胆な刺激策も、パンデミック(世界的大流行)の経済的影響を相殺できるほどではない。コロナ禍以前から韓国の経済成長率は低下の一途をたどり、2019年にはわずか2%になっていた。その理由の1つは世界最速の高齢化だ。2019年の韓国の合計特殊出生率は0.92人と、史上最低となった。韓国統計局によると、生産年齢人口は2018年をピークに、2046年には30%以上減少する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コメルツ銀、第1四半期は29%増益 通期の純金利収

ビジネス

ブラックロック、インドに強気 国債ETFのシェア拡

ビジネス

日経平均は小幅続伸、米CPI控え持ち高調整 米株高

ビジネス

午後3時のドルは小幅安156円前半、持ち高調整 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中