大統領就任20年、ロシアを「巻き戻した」プーチンの功罪を9人の識者が斬る
HOW PUTIN CHANGED RUSSIA FOREVER
ロシアに大量の核兵器がなければ、世界は当分の間、この国の存在すら顧みないだろう。汚職がはびこり、エリート層は強欲で、公益の追求から長期的利益を得られることを理解できない国の1つにすぎない、と。
自由世界の一員というロシア像は誰のせいで「失われた」のか。責任があるのはほかならぬ私たち、すなわち教育あるロシア人だ。
脅威、偽情報、混乱プーチン主義の悲しい実態
■ウラジーミル・ミロフ(野党政治家、エコノミスト)
ロシアの先進市場経済国への移行は、プーチンのせいで数十年遅れた。権力の座に就いた当初、プーチンは西側世界との関係構築への願望を表明し、市民的自由や経済に政府が介入するべきではないとの姿勢を示していた。当時、約束した改革が実行されていたら、今頃ロシアは責任感を持ち、尊敬される国際社会のプレーヤーになっていただろう。
現在、ロシアの国内社会や政治・経済は完全に行き詰まっている。プーチン支持派さえも政治的変革が必要だと認めるが、本人は終身大統領として君臨するつもりのようで、行き詰まりには終わりが見えない。
ロシアの孤立は深まる一方だ。前代未聞の国際的制裁に直面し、将来的な経済発展は期待できない。破壊的行動や中国などの独裁体制と手を組むことでしか存在感を発揮できず、国際社会に提供できるのは脅威や偽情報、混乱だけ。悲しいことに、それが「プーチン主義」の在り方だ。
「のけ者」国家から再び民主主義への道を
■ウラジーミル・カラムルザ(野党政治家、ボリス・ネムツォフ自由財団会長)
この20年間に、ロシアは不完全な民主主義国から完全な独裁国家に、国際社会で尊敬されるパートナー国から「のけ者」的国家になった。2000年を迎える頃のロシアには競争選挙、自由で活力のあるメディア、多元的議会制、拡大する市民社会が存在した。国際舞台では、先進民主主義国から成るG8のメンバーになり、欧州人権条約に批准して、自国市民が欧州の強力な人権侵害監視制度の保護を受けられるようにした。
だが今や大手メディアはいずれも国家の統制下に置かれ、選挙は結果ありきの儀式と化し、議会は(議長いわく)「論議の場ではない」。平和的なデモの参加者が警察に殴打され、反体制派の政治家は投獄される。対外関係ではG8から排除され、厳しい経済制裁に直面し、数十年ぶりに国際的に未承認の国境を有している。
国民の権利を尊重し、国際社会で責任ある行動を取る民主的政府を樹立してダメージを回復するには時間も労力も要する。それでも、いずれその日は来るはずだ。
<本誌2020年6月9日号掲載>
【参考記事】プーチンの国ロシアの「ざんねんな」正体
【参考記事】感染爆発中のロシアで地殻変動? コロナ対応でプーチン支持急落

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