最新記事

メガクラスター

長崎で再現したクルーズ船の悪夢 なぜ対応は後手に回ったのか

2020年5月7日(木)10時42分

長崎市の造船所に停泊し、乗員の間で新型コロナウイルスの集団感染が発生したコスタ・アトランチカの船内。写真は4月25日撮影。5月1日、長崎県を通じ国立感染症研究所が提供(2020年 国立感染症研究所)

乗員数百人を乗せたコスタ・アトランチカ号が長崎市の造船所に接岸したのは1月下旬、厚生労働省が横浜港沖に投錨するクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号で検疫を始める7日前のことだった。

それから5週間、ダイヤモンド・プリンセスは中国国外で初の新型コロナウイルスの「ホットスポット」の1つとなり、さらに全国各地に感染が広がった。にもかかわらず、日本の当局は上海から到着したコスタ・アトランチカには何の指導も与えず、乗員の多くが長崎市内で買い物と食事をし、ソーシャルメディアへの写真投稿などを続けた。

その結果、長崎県当局によると、コスタ・アトランチカは、4月20日以降、乗員623人(同日時点)のうち、4分の1近い149人の感染が確認された。これまでに乗員5人が入院し、そのほとんどが一時重症化した。

英オックスフォード大学のデータをもとにロイターが計算したところによると、コスタ・アトランチカのケースは日本で発生した最も感染率が高いクラスター(感染者集団)の1つとなった。

「相手が見えず、長期戦になる」

横浜港に停泊するダイヤモンド・プリンセスのクラスター化に内外の懸念が集まる中、同じクルーズ船であるコスタ・アトランチカでは、なぜ感染拡大防止策の徹底が出遅れたのか。

長崎市は4月29日に「市中感染の可能性は低い」との調査結果を発表したものの、同船が停泊する長崎港の近隣住民からは行政や企業側の対応の鈍さに怒りの声も上がった。

厚労省の当局者によると、3月上旬に長崎県が同船の乗組員に対して乗下船の自粛を要請してからも、数十人が近隣を観光するなどしていた。しかし、感染経路の追跡は困難で、どのようにウイルスが船内に広がったのか分からないという。

地元当局によると、同船を運航するイタリアのコスタ・クルーズ社は5日までに、船内に待機していた乗組員のうち、検査で陰性となったインドネシア国籍の44人を含む181人を帰国させた。

一方、同船の修繕を請け負い、香焼(こうやぎ)工場に受け入れた三菱重工業の長崎造船所は4月25日、地元で開かれた説明会に出席。乗員の乗り降りについて十分な説明をせずに誤解を招いたことなどを謝罪した上で、当局と協力していくとした。

「行政にできること、企業にできることがあるはずだ」と、三菱側と面会した香焼町連合自治会の浜崎孝教会長は対策の徹底を訴えた。「相手が見えず、長期戦になる。ずるずる続けば長崎だけでなく、日本全体の問題になる」


【関連記事】
・東京都、新型コロナウイルス新規感染38人確認 4日連続で減少続く
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・日本とは「似て非なる国」タイのコロナ事情
・トランプ「米国の新型コロナウイルス死者最大10万人、ワクチンは年内にできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中