最新記事

医療

新型コロナウイルスが深めた絆 双子の救命医それぞれの最前線

2020年5月5日(火)12時00分

マイアミの病院で救命医として働く兄のデニス・ダーゾさん。ニューヨークの過酷な現場で働く弟マイケルさんの話を、明日の自分のことだと思って聞いている。4月20日、フロリダ州フォート・ローダデールで撮影(2020年 ロイター/Marco Bello)

新型コロナウイルスと戦うニューヨーク市の医療現場、その最前線の緊急治療室で働く医師マイケル・ダーゾさんは憂鬱(ゆううつ)な日々を送っている。

気管挿管された患者が、あふれかえる集中治療室のベッドが空くのを何日も待たされることがある。安定しているかに思えた患者の容態が突然、急速に悪化することもある。

先日の勤務シフトでは、23人の看護師のうち15人が病欠となった。その多くは、新型コロナウイルスの症状を示していた。残された看護師たちは、急きょ1人で約20名の患者に対応することになった。通常の2倍以上だ。

容赦ないトラウマに襲われるこの厳しい日々を過すうちに、マイケルさんは、彼にしか得られない安らぎを楽しむようになった。双子の兄が、親身になって話を聞いてくれるのだ。彼もまた、マイアミでまったく同じ仕事、つまり緊急治療室の医師として働いている。

兄のデニス・ダーゾさんにとって、マイケルさんの話は明日の自分のことのように聞こえる。デニスさんが働くマイアミの緊急治療室も新型コロナウイルス患者で一杯になりつつあるが、マイケルさんの職場は米国で最もダメージの大きなニューヨーク市にある。マイケルさんは、何週間もその状況に押しつぶされている。

救命医は「家業」

救命医は、ダーゾ家の「家業」とも言える。父のジェームスさんはボストン郊外で35年間、救命医として働いてきた。2人の弟である28歳のトムさんも、マサチューセッツ州セーラムのノースショア・メディカル・センター附属セーラム病院で、緊急治療室の検査助手として働いている。

マイケルさん、デニスさんの双子兄弟は、31年間の人生のうち30年をほぼ一緒に過してきた。大学も医学大学院も一緒だった。あえて別々の地域に住もうと試みたことで、独立したアイデンティティを形成するチャンスが生まれた。

ところが、新型コロナウイルスとの戦いの最前線で医師としての技量を磨いていくなかで、2人の間に新たな親密さを生まれた。

マイケルさんはブルックリン・メソジスト病院に所属しているが、今は4週間の任期付きで近くのブルックデイル大学附属病院メディカルセンターで働いている。

病院内があふれかえるなかで、マイケルさんが担当する患者が何日も緊急治療室で生き延びる場合がある。家族の面会は認められないし、医師が忙しすぎて家族への説明も十分にできないことが多い。

マイケルさんによれば、すでに死亡した患者について遺族が最新の情報を問い合わせてくることもあるという。先日の夜には、問題なさそうに思えた患者3人が前兆なく死亡した。

「手の施しようがない患者を担当していると、ひどく気持ちが落ち込むことがある」とマイケルさんは言う。


【関連記事】
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・東京都、新型コロナウイルス新規感染87人確認 都内合計4655人に(インフォグラフィック)
・韓国のコロナ対策を称える日本に欠ける視点
・トランプ「米国の新型コロナウイルス死者最大10万人、ワクチンは年内にできる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率60%に小幅上昇 PCE

ビジネス

ドル34年ぶり157円台へ上昇、日銀の現状維持や米

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中