最新記事

感染症対策

イスラム教の断食明け休暇帰省を全面禁止へ インドネシア、新型コロナウイルス感染拡大ストップへ

2020年4月22日(水)17時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

断食月明けの帰省や旅行を禁止すると発表するインドネシアのジョコ・ウィドド大統領 KOMAPSTV / YouTube

<日本同様、比較的穏やかな移動自粛要請を打ち出していたが、民族大移動の季節を前に方針撤回せざるを得ず......>

インドネシアのジョコ・ウィドド大統領は21日、テレビを通じた閣僚会議で5月末に予定されるイスラム教の断食明けの「レバラン大祭の休暇」で恒例となっている国民の帰省や旅行などの移動を全面的に禁止する方針を明らかにした。禁止は4月24日から早速適用される。

新型コロナウイルスによる感染者、死者が依然として増加し続けているインドネシアの公衆衛生上の危機を最小限に抑えるため、最も感染者が多いジャカルタ首都圏などの都市部から全国の地方に人が移動することによる感染のさらなる拡大を予防することが帰省禁止の最大の目的としている。

政府はこれまでに国家公務員や警察官、軍人に関してはレバランの帰省を原則禁止してきたが、国民に対しては「帰省を見合わせるように」とのお願いベースの規制だけで、強硬策をとることには経済的影響や国民の不満拡大が深刻とみられることなどから慎重な姿勢だった。

2000万人が帰省する民族大移動

世界4位の人口約2億6000万人のうち実に約88%を占める世界最大のイスラム教徒人口を擁するインドネシアでは4月24日から約1カ月の断食を迎える。

イスラム教徒の最も重要な5つの義務の一つとされる断食では日の出から日没まで一切の飲食、喫煙、性交を絶ち、厳格には唾を飲みこむことも淫らな妄想を抱くことも禁忌とされる。

日の出前の食事、日没後の飲食は家族や友人らと食卓を囲んだり、イスラム教の礼拝施設であるモスクで会食したりすることが恒例で、1日5回の祈祷も通常通りに集団で実施する。

しかし現在は、モスクや宗教行事での集団活動が新型コロナウイルスのクラスター(感染集団)となることから、イスラム教団体などはモスクでの祈り自粛を呼びかけているが、禁止する措置はとっていない。このため開放されているモスクではイスラム教徒同士が約2メートルの「安全距離」を保って祈るように求められている。

ジョコ・ウィドド大統領も以前から「仕事、学習、祈りは全て家で行うように」と呼びかけて自宅待機と外出自粛を要請していた。

なお24%が帰省計画で大統領決断

ジョコ・ウィドド大統領が帰省全面禁止に踏み切ることを決断した背景に運輸省などが行った国民に対する調査の結果がある。

この調査で68%の人々が今年のレバランには帰省しないと回答したものの、依然として24%の人が帰省する予定である、7%がすでに帰省したと回答した。

調査結果を重く見たジョコ・ウィドド大統領は「依然として多くの人(24%)が帰省するという調査結果なので全国民に帰省禁止を発令するという重い決断をすることになった」と閣議で述べた。

帰省禁止に伴う各種必要な措置はこれから政府が早急に準備する、としている。帰省禁止で最も求められるのは実効性を持たせるためにどのように監視態勢を取るかということと、首都圏をはじめとする都市部での食料などの生活必需品の確保となる。

ジョコ・ウィドド大統領は閣議の席で関係閣僚に現在進めている現金や生活必需品の支給や配布などの低所得者、貧困生活者対策の強化とともに、新型コロナウイルス感染予防でジャカルタなどに発令された人やモノの移動の制限、一般ビジネスの営業停止、短縮などを内容とする「大規模社会制限(PSBB)」の影響で失業した労働者への手厚く迅速な対応の実行を指示した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国地裁、保守系候補一本化に向けた党大会の開催認め

ビジネス

米労働市場は安定、最大雇用に近い=クーグラーFRB

ワールド

パナHDが今期中に1万人削減、純利益15%減 米関

ビジネス

対米貿易合意「良いニュース」、輸出関税はなお高い=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..最新技術で分かった「驚くべき姿」とは?
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 5
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 6
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 7
    中高年になったら2種類の趣味を持っておこう...経営…
  • 8
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 9
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 10
    韓国が「よく分からない国」になった理由...ダイナミ…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 7
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中