最新記事

コロナ危機後の世界経済

未曾有の危機には米政府の「景気刺激策」では不十分

IS $2 TRILLION TOO LITTLE, TOO LATE?

2020年4月3日(金)19時20分
マイケル・ハーシュ

現金給付より雇用の維持が急務だ(コロナ対策の記者会見に臨んだトランプ) JONATHAN ERNST-REUTERS

<トランプ政権は大規模な財政出動で早期の回復を目指すが、急務は雇用の維持と債務の返済猶予──。本誌「コロナ危機後の世界経済」特集より>

投資家の期待は予想以上だった。新型コロナウイルスの感染拡大による経済損失の軽減を目指す総額2兆ドル規模の景気刺激策が米議会で成立する見通しになった途端、米株式市場は急反発し、史上最大の上げ幅を記録した。だがアメリカ国内と世界中の経済活動が突然ストップした今、この対策では迅速な回復は期待できないとの厳しい見方もある。

20200407issue_cover200.jpgいま必要なのは「景気刺激策」でも、一時しのぎの現金給付でもない。ローンの返済を猶予すること、操業停止などに追い込まれた企業の従業員にちゃんと賃金が支払われるようにすること。それが、政府が早急に取るべき対策だ、というのだ。

ホワイトハウスの専門家の慎重論にもかかわらず、ドナルド・トランプ米大統領は4月12日までに経済活動を一部再開すると発表した。強引に再開できたとしても、コロナショックが経済に及ぼす永続的な大損失を防ぐには、前例のない規模での政府の介入が不可欠だ。

3月24日に景気刺激策の早期成立の見込みが伝えられると、ダウ平均は1933年にフランクリン・ルーズベルトがニューディール政策を始めて以来の最大の上昇率を記録し、前日比2113ドル高の2万705ドル近い終値を付けた。だが、これは3月中旬に1931年9月以来最大の下げ幅を記録した弱気相場からの揺り戻しだ。市場の動きは、過去最大の景気対策が大恐慌への対策並みの重要性を持つことを物語る。

最も差し迫った問題は、大恐慌時代よりも急速に国中の経済活動が停止し、アメリカ史上かつてないペースで労働者が一時解雇されていることだ。それにより企業の負債から個人の住宅ローンまで、債務の返済が全面的に滞る事態が予想される。

デフォルト(債務不履行)の嵐を防ぐには、債務契約上の義務を一時的に猶予し、差し押さえや立ち退き、破産申請など経済に長期の打撃を与える動きを防ぐことだと、著名な経済学者らは異口同音に主張する。連邦政府が介入して、民間の契約に暗黙の「不可抗力条項」があるとの解釈で債務返済を猶予すること。そして、一時解雇されたり休暇を強いられたりしている大勢の労働者に給与が支払われるようにすることだ。

「『刺激策』という言葉自体、この危機の性質が理解されていないことを示している」と、コロンビア大学教授でノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツは言う。「リーマン・ショックでは極端な信用収縮が懸念された。あの時は金融システムが機能停止に陥って、トップダウンで危機が起きたが、今回はボトムアップだ。(議会では)それが十分議論されなかった。賃金が支払われなければ、人々は物を買えない。(現金給付で)食べ物は買えるにしても家計は逼迫したままだ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談 W杯抽

ワールド

プーチン氏と米特使の会談「真に友好的」=ロシア大統

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米国株式市場=小幅高、利下げ期待で ネトフリの買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中