最新記事

北朝鮮

新型コロナ「平壌など23人死亡」......金正恩に極秘集計の衝撃情報

2020年3月3日(火)17時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮当局は公式には「感染者」はいないという立場だ Shamil Zhumatov-REUTERS

<当局が極秘に集計した結果、北朝鮮で新型コロナウイルスの症状で現在82人が隔離されている>

北朝鮮当局は「わが国に新型コロナウイルス感染者は発生していない」と繰り返しているが、各地から新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)と疑われる症状で亡くなる人が相次いでいるとの情報が寄せられている。そんな中、当局が感染者の極秘集計を行っている。

<参考記事:「あと15日しかもたない」金正恩、新型肺炎で体制崩壊の危機

北朝鮮国内のデイリーNK高位情報筋は、政府の中央非常防疫指揮部が集計した結果、1月から今月25日までに、高熱、咳、呼吸困難の症状を示し、死亡した人が全国的に23人にのぼると述べた。

「結果は深刻」正恩氏発言

内訳は平壌7人、平安北道(ピョンアンブクト)の新義州(シニジュ)と義州(ウィジュ)8人、龍川(リョンチョン)4人、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の羅先(ラソン)2人、黄海南道(ファンヘナムド)の海州(ヘジュ)2人だ。

また、同様の症状で隔離されている人は82人に達する。

平壌と海州を除く各地域は、中国と国境を接していることから中国から流入したものと思われる。また、平壌では中国で留学中だった学生から、海州では新義州で中国製品を買い付けていた商人から感染が広がったものと保健当局は見ている。

ただし、繰り返しになるが、北朝鮮当局は対外的には国内での新型コロナウイルスの感染者発生を認めていない。あくまでも「急性肺炎」という扱いだ。

「指揮部で地域別急性肺炎の死者と隔離措置者の管理状況を議論しつつも、新型コロナウイルス感染者はいないとの結論を下した。人民に感染者はいないと知らせて、徹底した防疫を継続すべきとの指針を下した」(高位情報筋)

北朝鮮の防疫体制は日本や韓国、中国などと比べ極めて脆弱だ。国民も、そのことを十分に理解している。感染者の大量発生は国民に大きな動揺をもたらし、金正恩体制の崩壊にさえ発展しかねない。

そうでなくとも北朝鮮当局は、経済難により悪化した治安を抑え込むべく、公開処刑を活発化させていたところだ。

参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は2月29日、朝鮮労働党中央委員会政治局拡大会議で金正恩氏が新型コロナウイルスを巡り、「この伝染病がわが国に流入する場合に招かれる悪結果は深刻であろう」と述べたと伝えた。また党機関紙の労働新聞は1月29日、新型肺炎への対策は「国家存亡に関わる重大な政治的問題」であるとする記事を掲載している。

北朝鮮国内の感染実態が本当のところどこまで来ているのかは知りようがないが、金正恩氏が相当な緊張感の中にあることは想像に難くない。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州で増加する学校の銃乱射事件、「米国特

ビジネス

豪サントス、アブダビ国営石油主導連合が買収提案 1

ワールド

韓国、第2次補正予算案を19日に閣議上程へ 景気支

ワールド

米の日鉄投資計画承認、日米の経済関係強化につながる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 7
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中