最新記事

一帯一路

感染者ゼロ死守のインドネシア 新型ウイルス封じ込め作戦で中国関連事業にブレーキ

2020年2月27日(木)20時40分
大塚智彦(PanAsiaNews)

ジャカルタとバンドンを結ぶ高速鉄道計画の工事現場 Willy Kurniawan - REUTERS

<中国の一帯一路戦略によって巨大インフラ整備の恩恵を受ける東南アジアだが、新型コロナウイルスによって高い代償を支払う可能性も>

世界的に感染拡大を続けている新型コロナウィルスに対し、2月26日現在も国内での感染者ゼロを続けている東南アジアのインドネシア。だが、国内で進められている中国が関連した大型プロジェクトへの影響が次第に深刻化している。

中国からの部品供給が止まるとともに、中国人労働者の隔離や入国制限などがその原因で、インフラ整備を国内重要課題の一つに掲げているジョコ・ウィドド政権にとっては、思わぬ突発事態となっており、プロジェクトの完工計画などの見直しも迫られている。

インドネシアの首都ジャカルタと西ジャワ州のバンドン間約150キロを結ぶ高速鉄道計画は、2015年に安全性をうたった日本を競争入札において価格面で有利な条件を提示して落札した中国が現在建設を進めている。当初2019年の完工を目指していたが、用地買収などが思うように進まなかったことなどから大幅に事業計画は遅れている。

そうした事態に今回の新型肺炎の中国国内での蔓延を受けてインドネシア政府が2月3日からインドネシアと中国を結ぶ航空便の全面停止や中国からの輸入制限、物流制限を打ち出した影響をもろに受けて中国との人と物の流れが途絶える事態となってしまった。

中国からの資材停止、中国人労働者足止め

ブディ・カルヤ・スマディ運輸相は2月23日、高速鉄道建設は土地収用が99.9%終わり、工事全体の進捗率は44%であるとして、新型肺炎のプロジェクトへの影響はなく、2021年12月には完工に漕ぎつけることができるとの楽観的見通しと期待を示した。

しかしその一方で事業主体であるインドネシア中国高速鉄道(KCIC)のチャンドラ社長はマスコミに対してパイプ、防水加工品、信号関連部品などの資材の約50%を輸入している中国で資材関連工場が新型肺炎の影響で操業停止に追い込まれていることや、1月25日からの春節休暇で中国に里帰りした中国人労働者らがインドネシアへの再入国を阻まれていることなどを指摘。事業への影響が出ているとの認識を明らかにしている。

現場では約1万4000人の労働者が工事に従事しているが、そのうち中国人労働者は約2000人でその多くが中国から戻れない状況という。「戻れない中国人の中にはマネージャー、ディレクター、コンサルタント、エンジニアなどの専門職が含まれており、彼らがいないと現場での意思決定ができず、工事が実質的に進まない」としている。

さらに「コンクリートや鉄材はインドネシアでも調達可能だが、それを補強、補助する資材が中国から輸入できないと工事が進まない。このままでは今年の事業目標を示すことは難しい」とチャンドラ社長は事業計画への影響は必至との考えを示している。

中国が安価で落札した背景にはこうした資材、労働力を中国に頼る事業計画があったのだが、それらが今回の新型肺炎で裏目に出た形となっている。

インドネシア側は不足している中国人労働者の代わりにインドネシア人を投入することで「工事の遅れ挽回と地元民の雇用促進」を促進できると前向きにとらえているが、完工が再び遅れる可能性も指摘されている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、ベネズエラとの戦争否定せず NBC

ビジネス

独経済回復、来年は低調なスタートに=連銀

ビジネス

ニデック、永守氏が19日付で代表取締役を辞任 名誉

ビジネス

ドル157円台へ上昇、1カ月ぶり高値 円が広範にじ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 7
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中