最新記事

新型コロナウイルス

クルーズ船の外国人船員を忘れるな──押し付けられた危険任務

2020年2月26日(水)11時15分
スリバラ・スブラマニアン

マスクを着けて船を清掃するダイヤモンド・プリンセス号のクルー KIM KYUNG HOON-REUTERS

<ダイヤモンド・プリンセス号の乗員の7割以上がフィリピン、インド、インドネシア出身。船内における乗客と乗員の条件は「平等ではない」と橋本岳厚生労働副大臣も認めているが>

バレンタインデーの2月14日、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の乗員メイ・ファンティロは、同僚たちが踊る動画をツイッターに投稿した。危機のさなかでも元気に頑張っている姿を見せるためだ。船は新型コロナウイルスCOVID-19の感染拡大を受けて、日本の横浜港で隔離されていた。

隔離措置は2月19日に終了したが、ファンティロはもう元気ではなかった。「状況は毎日悪くなる一方。ウイルスがどこにいるのか、私たちには分からない」。そうツイートした彼女は、在日フィリピン大使館に助けを求めた。

乗員1045人の70%以上は、フィリピン、インド、インドネシアのアジア3カ国の出身者だ。このクルーズ船は中国以外で最大の感染スポットだが、乗員たちの窮状はあまり取り上げられてこなかった。これまでに感染が確認された634人のうち、50人以上が乗員だ。

船内に残る人々の試練はまだ終わっていない。乗員は客室の消毒を手伝った後、すぐに「正式な隔離」に入る。船内の隔離を維持するため、長時間労働を続けてきた彼ら自身は、そもそも隔離されていなかった。

乗員はその間、食料や水、医薬品を乗客に届け、潜在的な感染の危機にさらされた。寝る場所は相部屋で、トイレや食事場所も共同だった。

乗員の一部がウイルス検査で陽性と判明すると、隔離システムの不公平さが明らかになった。日本の橋本岳厚生労働副大臣もCNNの取材に対し、乗客と乗員の条件は「平等ではない」と認めている。

多くの感染症専門家が、隔離は失敗だったのではと懸念している。理由の1つは、乗員の隔離が不徹底だったことだ。ハーバード大学公衆衛生学大学院のマイケル・ミナ助教(疫学)は、「乗員は自分を隔離するわけにはいかない。部屋も相部屋だ。明らかに受け入れ難いリスクを彼らに押し付け、感染を広げた」と指摘した。

乗客で医師のアーノルド・ホプランドはニュースサイトのポリティコにこう語った。「乗員はひどく怯えている。彼らは狭い船室に押し込められ、肘と肘がぶつかりそうな距離で働いている」

乗員がSNSを使い、自国政府に下船させてほしいと訴えると、一部には前向きな反応もあった。フィリピンのロクシン外相は「今すぐ彼らを帰国させたい」と語った。大半のフィリピン人乗員は下船を希望しているが、一部は隔離措置の完了まで船内に残る意向を示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午前の日経平均は続伸、一時4万3000円回復 米関

ビジネス

インタビュー:先端素材への成長投資加速、銅製錬は生

ワールド

韓日米、15日から年次合同演習実施 北朝鮮の脅威に

ビジネス

トランプ氏対FRBの構図、市場が波乱要素として警戒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 6
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中