最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナウイルス、クルーズ船の悲劇はまだ終わっていない

Passengers Quarantined on Two Cruise Ships Were Released. Then They Tested Positive for Coronavirus.

2020年2月19日(水)14時40分
エリオット・ハノン

クルーズ船ウエステルダム号から降りた乗客を「濃密に」歓迎するカンボジアのフン・セン首相(2月14日、シアヌークビル) REUTERS

<厳しい隔離措置をとったダイヤモンド・プリンセスでは船内感染が拡大しウエステルダムは下船後に乗客の感染が確認されるという不始末>

ウイルスを封じ込めるのがいかに難しいか、思い知らされる毎日だ。それを最も凝縮した形で示しているのが、2隻のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」と「ウエステルダム」だろう。2隻のクルーズ船の乗客がたどった下船への道は対照的だったが、検査法や感染予防のあり方を含め、数千人という人々を閉鎖空間に閉じ込めながら感染を防ぐことの困難さを見せつけた点では同様だ。

2隻のうちより大きな注目を集めてきたのは、ダイヤモンド・プリンセスだ。乗員・乗客3700人を乗せた17階建ての豪華客船は、1月25日に香港で下船した乗客が新型コロナウイルスに感染していたことがわかり、2月3日から日本の横浜港で2週間の隔離措置を受けてきた。

しかしそのうち感染者が日々急増し始め、船内に閉じ込められることでむしろ感染リスクが高まっているのではないか、という「船内感染」への懸念と強まっている。

<参考記事>新型コロナウイルスはコウモリ由来? だとしても、悪いのは中国人の「ゲテモノ食い」ではない
<参考記事>マスク姿のアジア人女性がニューヨークで暴行受ける

ウエステルダム下船の乗客は既に世界に拡散

ウエステルダムの乗客たちの経験は、これとは大きく異なる。乗客・乗員2250人以上を乗せたウエステルダムは、2月1日に香港を出港し、15日に最終目的地の横浜に到着する予定だった。だが新型コロナウイルスに感染した乗客がいる疑いが生じたため、複数の国の寄港先に入港を拒否された後、13日に中国政府の要請を受けたカンボジアに入港した。

だが、翌日すぐに「恐ろしい」ことが起こった。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、「同クルーズ船に感染者は確認されなかったとして、何百人もの乗客が大喜びで下船」してきたのだ。写真を見ると、下船した乗客たちも、それをわざわざ出迎えたフン・セン首相も、マスクもせず抱き合っている。そして乗客は自由の身になり、三々五々、散って行ったのだ。

ウエステルダム号の「自由な」船内


「下船した乗客の一部は観光地やビーチ、レストランを訪れたり、マッサージを受けたりした。そのほかの者たちは、カンボジアから別の国に渡った。だがそのうち一人は、マレーシアのクアラルンプール国際空港で『御用』になった。そのアメリカ人女性は空港での検温に引っかかり、検査で新型コロナウイルスの感染が確認された」と、ニューヨーク・タイムズは書いている。一人の感染が確認されたことで、他の乗客たちにも感染の疑いが浮上したが、その多くは既に世界中に散ってしまっている。

「対応の不備は予想していたが、ここまでひどいとは思わなかった」と、米バンダービルト大学医療センターの伝染病専門家、ウィリアム・シャフナー博士は同紙に語った。これで、新型コロナウイルスを中国だけに封じ込めておくことは困難になったかもしれない、というのだ。

カンボジア政府は、WHO(世界保健機関)と米疾病対策センター(CDC)の定めた手順に従って、下船する乗客の検査を行ったと主張している。そこに本当に不備があったのかどうかはまだ不明だが、確実な検査がそう簡単でないことはダイヤモンド・プリンセスの例を見れば明らかだ。

新型コロナウイルスの種は、すでに世界にバラまかれてしまったのだろうか。

20200225issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年2月25日号(2月18日発売)は「上級国民論」特集。ズルする奴らが罪を免れている――。ネットを越え渦巻く人々の怒り。「上級国民」の正体とは? 「特権階級」は本当にいるのか?

© 2020, Slate

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、利下げ前に物価目標到達を確信する必要=独連

ワールド

イスラエルがイラン攻撃なら状況一変、シオニスト政権

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ビジネス

中国スマホ販売、第1四半期はアップル19%減 20
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親会社HYBEが監査、ミン・ヒジン代表の辞任を要求

  • 4

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 5

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 9

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中