最新記事

中国

米イラン危機で漁夫の利を得る中国

TRUMP’S GIFT TO CHINA

米イランの衝突は習近平にとってチャンス NOEL CELIS-POOL-REUTERS

<中国の飛躍的な経済発展は9.11のおかげ――トランプは17年前に中東の戦争に足を踏み入れたブッシュの過ちを繰り返すのか>

ドナルド・トランプ米大統領がイラン革命防衛隊「クッズ部隊」のガセム・ソレイマニ司令官を暗殺し、米イランの全面戦争という恐怖のシナリオがちらつくなか、現時点での勝者が1人だけいる。中国の習近平(シー・チンピン)国家主席だ。

歴史は繰り返す、とは限らないが、今の状況には既視感がある。ジョージ・W・ブッシュが2001年1月に大統領に就任した際、彼のネオコン(新保守主義)の側近たちは中国をアメリカの最大かつ長期的な脅威と位置付け、「戦略的競争相手」として封じ込める作戦に出た。

2001年4月、南シナ海上空でアメリカ海軍機と中国の戦闘機が衝突し「海南島事件」が起きると、アメリカは中国からの抗議をよそに台湾への武器売却を発表。米中関係は1979年の国交正常化以来、最悪の水準にまで落ち込んだ。

全てが変わったのは2001年9月11日、アメリカが米史上最悪のテロ攻撃を受けたときだ。ブッシュ政権はアルカイダへの報復に血眼になり、遠いアジアの超大国の脅威など忘れてしまった。

9月11日からわずか3カ月後、ブッシュのゴーサインをもって中国はWTO(世界貿易機関)への加盟を果たし、中国の経済成長に拍車が掛かった。2000年に中国のGDPは約1.21兆ドルとアメリカのGDPの12%未満だったが、ブッシュ政権2期目の終わりまでには約4.6兆ドルと、アメリカの31%以上に達した。現在、中国はアメリカのGDPの約65%にまで追い上げている。

この意味では、中国の「経済的奇跡」は9.11同時多発テロのおかげだと言える。より正確には、ブッシュ政権の破滅的な対テロ戦争がもたらしたものだと。そして今から20年後には、ソレイマニ暗殺についても同じように語られているかもしれない。

ブッシュと同様、トランプは政権に就くとすぐに中国をアメリカの最大の敵と見なし、貿易戦争をはじめとする挑戦的な政策を取った。中国を封じ込めることに焦点を当て、米外交政策の従来の原則に立ち返り、超大国間の競争を復活させたのだ。

そしてトランプがソレイマニを殺害すると、全ての関心がイランへと向かった。軍事的衝突がエスカレートし続ければ、たとえ全面戦争にまでは至らなくとも、アメリカは莫大な資源を対イランに振り向け、対中政策は後回しにされるだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=反発、FRB当局者の利下げ発言を好感

ワールド

米・イラン対立激化懸念高まる、トランプ氏支持率低下

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、FRB当局者の利下げ支持発

ワールド

米国が攻撃したイランの拠点、「完全に破壊された」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中