最新記事

北朝鮮

「金正恩のタワマン、いずれぜんぶ崩壊」......建設担当者の不安な未来

2020年1月24日(金)16時30分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

2017年1月、タワーマンション建設中の黎明通りを視察する金正恩 KCNA-REUTERS

<金正恩が建設を急いだ首都・平壌「黎明通り」のタワーマンション群で、柱と基礎に重大な欠陥が見つかった>

北朝鮮の人民武力相(防衛省に相当)に、金正官(キム・ジョングァン)陸軍大将が新たに任命されていたことが22日、判明した。

国営の朝鮮中央通信が同日、平壌で21日に山林復旧および国土環境保護部門の活動家会議が開催されたことを報道した中で、金正官氏を「人民武力相(陸軍大将)」と紹介したのだ。

500人死亡の修羅場

北朝鮮の軍は、金正恩党委員長が最高司令官の座にあり、その下に3人の最高幹部がいる。朝鮮労働党による軍の統制を担う総政治局長、戦闘指揮官である総参謀長、そして軍事行政を担当する人民武力相だ。

これまで、人民武力省の次官として知られていた金正官氏は、どうやら軍の建設部門を統括してきたようだ。北朝鮮メディアは2019年5月、金正恩氏が東海岸の元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区の建設現場を視察した際、金正官氏が同行したことを報じた。また2017年3月には、「黎明(リョミョン)通り」の建設現場視察に同行したことも伝えられている。

元山葛麻も黎明通りも、金正恩氏が最も力を入れてきた事業だ。特に北朝鮮の首都・平壌の大城(テソン)区域に位置する「黎明通り」のタワーマンション群は、同国最大のランドマークと言える。高さの面で言えば、日本のどのタワマンをもしのいでいるのだ。これをわずか1年で完成させたというから、金正官氏の実行力は並大抵のものではないようだ。

しかし、まさにその経歴が、金正官氏の未来を不安視させる要素にもなる。

韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)は1年ほど前、黎明通りのタワマンで柱の膨張や地盤沈下が起きていると伝えた。コンクリートの乾燥を早める混合剤に問題があったもようだという。

柱と基礎の重大な欠陥が同時に見つかるとは、まさに倒壊につながりかねない危機と言って差し支えないだろう。また、黎明通りに次ぐ規模のタワマン群がある「未来科学者通り」の建設に動員された元朝鮮人民軍兵士は以前、デイリーNKジャパンの取材に次のように答えた。

「未来科学者通りは金正恩が自ら旗を振った事業でもあり、当初は安全管理についても関係当局から厳しく指導されていました。しかし、現場に供給されているはずの資材が足りないといったことが、次第に増えました。しかも、どんどん工期が迫ってくる。セメントと砂の混合比率や鉄筋の使用量が、上層階に行くほどいい加減になっていきました。北朝鮮で地震はほとんど起きませんが、いずれ何かの拍子に、建物がぜんぶ崩壊してしまうのではないでしょうか」

実際、平壌では2014年、完成したばかりのマンションが崩壊して500人が犠牲になる大惨事があった。北朝鮮当局は従来、こうした事故を徹底して隠ぺいするが、このときは犠牲者の多くが朝鮮労働党中央委員会の職員家族だったこともあって、やむをえず公表している。

<参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動...北朝鮮「マンション崩壊」事故

黎明通り建設の実態もまた、これと似たようなものではないか。金正恩氏自慢のタワマンで大規模な事故が起きれば、その建設指揮官が無慈悲な処罰を受けるであろうことは想像に難くない。

<参考記事:やっぱり事故が起きていた金正恩氏「恐怖写真」の現場

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

dailynklogo150.jpg



今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

世界の石炭需要、今年過去最高に 30年までには減少

ビジネス

ホンダ、日本と中国の工場で年末年始に稼働停止・減産

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支

ビジネス

英CPI、11月は前年比+3.2%に鈍化 3月以来
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中